第3話 3つの大陸を渡る旅 上

 アイゼンとパイオニアの面々が、昼を少し過ぎた頃にナガミチの家にやってきた。


 ナガミチの家の地下室には、この部屋の隅にあったテーブルと椅子を、アサトが用意していた。


 一同がテーブルに着く。


 中央にアイゼンが座り、その右横にはサーシャ、左横にはテレニアが座った。

 サーシャの隣にグリフが座り、テレニアの横にアルベルトが座る。

 その五人の向こうに、アイゼンの向い側にポドリアンが座ると、右側にインシュア、左側にアルニア。インシュアの横にアサトが座る。

 チャ子は、一階でお留守番のようだ。


 全員が座すると、上でなにやらドタバタと始めた、その音にアイゼンが、「干し肉か?」とサーシャに聞くと、ちょっと眉間に皺をよせながら頷いた。

 どうやら、チャ子はみんなに気付かれないと思って、キッチンで大好物の干し肉を探しているようだ。


 一同を見てから立ち上がり、アイゼンが口を開ける。


 「すまないな、こんな時に集まってもらって…」と言うと、一同がアイゼンを見た。

 それを確認してから

 「話が長くなるから、座らせてもらう。」と言い、椅子に腰を下ろした。


 「今日、みんなに集まってもらったのには訳がある。それは、ナガミチが、クレアシアンから得た情報の事だ」と言いながら、なにやら紙を出した。

 その紙をテーブルに置き、再び一同を見る。

 「この文字を読める者はそんなにいない。それは分かっている。あえて言う必要も無いが、私はアメリカ人である。そして、アサト君」とアサトを見る。

 「君はナガミチと同じ、である。」と言葉にする。


 …日本人?


 「我々は種族は同じだが、民族は違う。これで分かったかな?アサト君。一番最初に、君に“こんにちは”と書いてもらった意味を。」


 アサトは、あの時の状況を思い出した。

 アイゼンの気紛れなら付き合うつもりだったが、ほんとに確認をしたのだと、と言っても、日本人ってなんだ…どんな民族…、民族って…と頭を駆け巡る。

 そういえば、ナガミチも同じような事を言っていた事を思い出した。『俺とお前は、同じ種族で、同じ民族。この民族が使用していたのが、この武器。太刀だ。』と…。


 「まぁ~、それは、おいおい教えるが、最初にアサト君に聞きたい、君はこれからどうしたい?」とアイゼンが言葉にする。

 「…どうしたい…って、言われましても……、とりあえず、アルベルトさんとインシュアさんに修行をつけてもらい、その後は……」と答えに詰まってしまった。

 それを見透かしているような表情で、アイゼンが言葉にした。

 「…何をしたらいいのかわからないよな。…あの日、君たちが狩り兼修行に行ったあと、私たちは時間をかけて色々話をした。そう、クレアシアンの情報もそうだったが、ナガミチは、君のこれからをかなり憂いていた。一子相伝の『』と言う職業を君に伝授する事は、君に狩猟人になり、のちのち師範となって同じ民族の来訪を待ち、そして、伝授する。それは君の一生を、勝手に作り上げようとしているのではないかと憂いていた。」

 その言葉に、アサトはうつむく…。


 「だが…それしか無かった。それは君も分かってほしい。これは遊びじゃない。君はまだ、ギルド、パイオニアのメンバーではないが、君もメンバーになって貰いたい、そして重要なメンバーになってほしいと私は思っている。」

 アサトは、アイゼンに視線を移す。


 そうだ、僕はまだ、このギルドに入っていなかった…。

 銀貨20枚は貰ってはいたが、重要な事を忘れていた…。と思い出した。


 「…ただ、ナガミチは、このギルドに入るも入らないも、君に任せて欲しいと言っていた、そして、君が承知したのち、このギルドの本来の目的も話して欲しいと言っていた、…これは、ナガミチの希望。君が平民を望むなら、そうさせて欲しいとも言っていた。」


 …決めるのは僕なんだ、殺しあわなくてもいい、そんな生き方も選べるんだ…はっきり言って、あの時のゴブリンとの戦いは辛かった…、命が、あんなにも重いとは思ってもいなかった…。できることなら…。


 「それで、アルベルトもインシュアもいる事だし、ナガミチと私らが歩んできた、長い、長い旅の話をしたいと思う。この話を聞いて、アサト君」

 アサトは、アイゼンの言葉に顔を上げてアイゼンを見る。

 「私からの提案をしたい。それから君が、ゆっくりこの先を決めればいい。」と表情を少し緩めて言葉にした。


 …ナガミチらが歩んだ旅の話…興味があった、ナガミチがどういう風に、この世界にあらがい、あのあかしをつくったのか…


 アイゼンが言葉にした、「わたしたちは…」


 …約30年前、アイゼン・ナガミチ・サーシャ・グリフ。そして、武器屋のウイザの5人と、他に7名の計12名が、この世界に一緒に誘われた。

 その12人をアイゼンがまとめた。


 街はずれの北の牧場の一角を借りて、12名は、この世界での生活を始めた。


 この牧場の牧場主さんが、善良な人であったのが良かったようだ。

 12名は、サーシャの他に女子3名がいて、この4名は、この牧場で働かせてもらう事になり、他8名の男子は、牧場主の話によると、珍しい鉱石が出る時があるとの事で、崖に行き、そこで鉱石を掘り出す作業をした。

 女子は、牧場主の奥様と、牧場の敷地にある畑などで野菜作りや、林にあるキノコの採集などをして手伝った。


 牛舎の一角を貸してもらい、女子と男子が、分けて寝られるように、部屋を作った。

 ご飯は、牧場主が用意してくれたが、迷惑はかけたくないと男子が採掘してきた、鉱石を売ったお金の半分を牧場主に渡し、残りは全員で分けた。

 12名もいたので、分配金は少額だったが、そこには暖かい雰囲気があった。


 半年が過ぎた頃、ナガミチが狩猟者と言う仕事があり、金になるとの情報得た。

 アイゼンがその情報の裏を取り、12名で選択することにした。

 このままで生きるか、それとも…。

 牧場主の旦那と奥さんにも相談して、12名が、狩猟者への道を進む事にした。


 まずはアカデミーに入るためのお金、だが、1人銀貨5枚は持っていなかった。

 また鉱山などで鉱石を採掘するかどうか話し合っていた時に、牧場主が、足りない分を出してあげるとの事を申し出てくれた、アイゼンたちは一度は断ったが、牧場主は、余裕が出来たら返してくれればいいといい、快く不足金を準備してくれた。


 アイゼンたちが手にしていた銀貨は、9枚、残り、51枚の銀貨を借りて、アカデミーでの修業に入った。


 アイゼンは、盾持ち剣士。グリフとナガミチは、戦士、グラディエーター。サーシャは、魔法使い。ウイザは、弓使い。他の人らも神官やアサシンなどを選んだ。


 戦闘の仕方も知らなかったアイゼンらは、確実に狩猟ができるようになるまで、かなりの時間がかかったが、戦闘を組み立てる指揮官をアイゼンが取るようになってから、適格に狩猟が出来るようになり、分け前は小さかったが、牧場主に借りた銀貨を返せるようになるまでに成長した。


 その時は気づいていなかった、自分たちが有頂天になっていたことを…。

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