第2話 アサト…明日に向かう。 下

 それから間もなく、玄関の扉がゆっくりと開く。


 アサトとチャ子がそちらを見ると、そこには、冷ややかな目をしているアルベルトが立っていた。

 一歩中に入ると、居間のソファーに横たわっているインシュアを見て、「っチ」と、舌打ちをする。

 そして、キッチンのテーブルで、食事をしている二人に冷ややかな視線をむける。

 「…どうやら、食欲はあるみたいだな…」と言うと、扉を閉めて中に入って来た。


 部屋の中を見渡し、居間の祭壇へと進むと、そこで少しばかりの黙とうをささげて、飾ってあった服に手を当てながらギルド証と師範証を手にして、冷ややかな目で見つめた。

 その後、太刀に手をあてると、ゆっくり振り返り「…おまえらに話がある。」と言葉にする。


 インシュアがその言葉に起き上がると、ソファーからキッチンへと移動して、テーブルに着いて朝食を取り始めた。

 上座にアルベルトが座り、椅子の背に背中を預けると足を組んだ。


 「…これから、どうする気か聞きに来た。」とアルベルトが、腕組みをしながら話しを始めた。

 アサトは持っていたパンを皿に置くと、そのパンに視線を移す、インシュアは、目の前にあるパンを掴むと

 「何はともあれ、今までと同じだ。依頼があれば赴く。斬る。頂く、そして、ギルドからも頂く」と、言葉にしてパンを食べ始めた。

 「…おまえは?」と聞かれるアサト。

 「……ぼくは…」と答える。


 そうである、師匠のいなくなった今、これからどうすればいいのであろう、ナガミチは、ここに居ていい、ここで修行をして、狩りをして、経験を積めと言っていた、そして、好きに生きろとも言っていた。

 でも、いままで、この地で生きる為に修行をした…のではなく、たぶん、生きる為には、ここに居た方がいいのではないかと、思っていたのではないか、ここなら、寝る所も食べる事もできる。

 贅沢する事、お金に関わる事に欲を出さなければ、ナガミチやインシュアといれば、生きていけると思っていたのではないか…。

 ただ、ナガミチが亡くなった日、アカデミーの終了を宣告されていた。と言う事は、一人で生きていかなければならないのか…。


 道しるべを失ったアサトは、これからの現実を、目の前に叩きつけられた気分になっていた。


 「…ぼくは……、これから…」と言うと

 「ったく、どうしようもないな…」と、アルベルトが言葉にすると、冷ややかな視線をアサトに送った。

 「…いいか、よく聞けクソガキ。」と言い、目を細める。

 アサトは、視線をアルベルトに移した。

 アルベルトの視線は、まっすぐにアサトを捉えている。

 その視線は、やはり、以前に感じた、異様な殺気を出している視線であった。


 「おまえが何を悩んで、どんな答えを出そうが、俺には関係ない。いいか、よく聞け、明日から狩りにでる、そして、修行をする。おまえが嫌で逃げだしても、おれは、お前を捕まえて狩りに出る、そして、修行をする。俺は、インシュアやナガミチさんのように甘くはない、お前に血反吐履ちへどはかせて、イジメ抜いてやる、死んだ方がましだと思えるくらいにイジメてやる、そして…強くしてやる。おれも、お前に、そんなに長く付き合う気はない、俺は、俺のやらなければならない事がある。だから、生きたければ早く強くなれ、できないなら、さっさと狩場で死ね。」と言うとインシュアを見る。


 「弟弟子おとうとでしが、その弟弟子おとうとでしをイジメるって言ってるんだ、兄弟子のあんたが、ただ見ている訳にはいかないだろう、あんたも付き合え」と言葉にする。

 「…そう言う事なら、分かった」とインシュア。

 その言葉に頷くと、

 「いいかよく聞け、クソガキ。」と、再び、アサトに視線を戻す。


 「…俺は、じゃない、でも、義理は通す。これが、ナガミチさんが、俺とインシュアに託した思いだ。だから、お前には拒否権は無い。さっき言ったように、さっさと強くなり、自分でこの先を選ぶか、狩場で死ぬかだ。」

 アサトは、小さくうつむく。


 …とりあえず、少しだけでも考えられる時間が出来た。

 このまま狩猟人で生きることも、狩猟人をやめて、平穏に生きる事も選択できる。

 その選択は、まだ先でいい。

 でも、はっきり言えるのは、手を抜かなくても、この人に殺されるかもしれない…。

 この人は、本当に無慈悲な人…なのであろうか…。


 「それと…、これからアイゼンが来る。」とアルベルトが言う。

 「なんか、俺たちに話があるそうだ、地下室があるのか、この家は?」と言葉にすると、インシュアが頷き「…あぁ。」と声に出す。

 「そうか、それなら、そこに椅子を用意しておいてくれと言っていた。アサトやっておけ」と、アサトを見ながら言う。その言葉に、小さく頷くと

 「…なんか、質問があるか?」とアルベルトが二人に聞く、すると、

 「ハイ、ハァ~い」とチャ子が手を挙げていた。もう、泣いていないようだった。

 それをアルベルトが見て、眉間にしわをよせて

 「…ったく、なんだ、。」と言葉にする。


 「チャ子も修行して、アルにイジメられる!」と言うと、アルベルトの眉が、無意識にピクッと動いた。


 「…バカっ、それは、お前の母さんには言うな。俺が殺される。」と言うと。

 「…んぢゃ、言わないからチャ子も修行する」とニカニカした表情で言葉を返した。

 「…あぁ~?それはだめだ、お前の母さんが許さない」とインシュア。

 「ぢゃ、どうすればいい?チャ子も強くなる、なりたい。」と立ち上がり声を上げた。

 「あぁ~、そうか…、まっ、とりあえず、母さんに相談してみろ」とインシュア。

 「…無理。ナガミチおじちゃんの時も、やっと説得したんだ、二人は信用無いから無理!!」とテーブルに手を付いて、足を弾いて、ぴょんぴょん跳ねながら言葉にした。


 「じゃぁ~あきらめろ」とインシュアが立ち上がりながら言うと、スープを取りに行く。

 「ぢゃ、母さんにアルにイジメられるって言う」と、言うと

 「…おい、、なんか、変な方向に俺が出ていないか?」と再び、眉の端が無意識にピクっと動いた。

 チャ子は、その表情を見てわかっていた。


 と…


 「…変じゃないもん、アルが、チャ子イジメるって、言ってたもん。」

 「いや、言ってねぇ~し」と焦るアルベルト。

 「言った」と引き下がらないチャ子…。

 少々言った、言わないで口戦こうせんをしたのち、アルベルトが頭を掻きながら

 「…あぁ~、なら、テレニアに相談してみろ、あいつならいい案を出してくれるかもしれない」と言葉にすると、ハッと思いついたように目を見開いてから、大きな笑顔を見せて、その場を後に家から飛び出して行った。


 「…まぁ、あのがどうなるかはわからないが、いいか、明日から狩りに出て修行だ、ナガミチさんに教えられた事を行く前にやっておけ、午後から出る。」と言い、おもむろに立ち上がると、スープを取り食べ始めた。


 …明日から…また、修行か…とアサトは、気持ちが重くなっていた。


 それから数時間後に、アイゼンとパイオニアの面々がそこにやって来た。

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