第52話 フランの動機

僕たちのコテージは11番だった。


コテージに行ってバスケットに入った荷物を置いて、「コーヒー飲む?」と僕はフランに聞いた。

ええ、いただくわ。フランは僕の方に向き直り、さっきはありがとう、と言った。

「フランが困っているようだったから」と僕は言って、どうせニコラがフランの気に障るようなことを言ったんだろう、だったらそれをもう1回フランの口から言わせることもないと僕は珈琲を淹れて、

「合成甘味料とミルクは?」と聞いた。

あ、どちらも1つづつ。フランは答える。コーヒーに合成甘味料と合成ミルクパウダーの両方を入れるのは子供の味覚だと思っていたけど、それはフランに似合っているような気がして僕は黙っていた。

フランに湯気の立つカップを渡して隣に座ると、彼女は一瞬身体を固くした。ユウミとは正反対の反応だけど、これはこれで悪くない。


「フランは何故B計画に応募したの?」さっきのニコラとの件を話題にしないようにしたら、フランとの話題はそう多くは無い。これを聞いたのだって深い意味なんてなかった。


私、こんな身体でしょう?フランは言った。

確かにフランは幼く見える。18歳だとは思うけど、14歳、いや13歳と言っても通りそうだ。背はここにいる12人の女の子の中で一番低くてやせぎすだ。それぞれの体型に合ったものを支給されているはずの制服も、それより小さいのが無かったのか少しダボッとしている。

だから何人かに「そんな身体で子供が産めるのか」って言われたわ。

「そういうことを言う人はいるね」

うん、他人のことをあれやこれやと言いたがるおせっかいおばさんみたいな人はいる。アパートの各フロアに1人づつぐらいいるんじゃないかと思う。

心配だから言ってるのー、ってね。

「フランが細いから心配、って言うんなら、合成ソーセージの1本でもくれたらいいのに、そういう人は無責任にそう言うだけなんだよ」

そうね、とフランは笑った。

でも、あんまりそういうことを言われたら自分でもちょっと心配になっちゃったの。

それでね、B計画に応募したら最初は学力テストで、これは中流階級の人が行く高校で真ん中ぐらいの成績なら大丈夫ということだったから問題ないとして、

フランは問題ないと言い切った。ということはフランも学生時代の成績はそこそこ良かったのか。学力テストの結果がわかるまで僕なんかドキドキしてたんだけどな。

その次の身体検査は生殖能力があるかどうかのチェックがあるから、

「女子の身体検査ってどんなの?」

僕は好奇心から聞いてしまった。フランはちょっとイヤな顔をしたけど教えてくれた。

身長とか体重とか血液検査。あとはなんか大きな機械で、そこから伸びている何かをお腹に当てて、お腹の中を見るの。

なんだそりゃ?と思ってけど、ああ、あれか、と僕は気が付いた。アウラの妊娠騒ぎの時にドクターが持ってきたあの機械だ。

「へぇー、すごいね」と言いながら僕は、別に男性の身体検査の内容は話さなくてもいいかな、と思った。小さい部屋に連れて行かれて、小さい容器を渡された時のあのなんとも言えない、ちょっと情けない気持ちをフランに言ってもわかってもらえないだろうし。


だから、身体検査に合格したということはちゃんと生殖能力があるということで、それなら結婚相手が見つからないなんてことにはならないと思ったの。

確かに、結婚という制度は子供を作って育てて、国民の義務を果たすためにあるんだから、結婚相手が見つからないというのは大問題だ。フランがどんなにかわいくても、子供が出来ないかもしれないと思う人と結婚する馬鹿はいない。

「それはなかなか素敵なアイディアだね」

だから身体検査に合格したらすぐに辞退しようと思っていたんだけど。。。

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