第51話 フラン

あのあともう1度サニアと話す機会があった。僕は次のパートナーチェンジでサニアとペアになりたいと言ったけど断られた。

私は最後でいいわ。だって1000万コイン狙いの子はまだまだいるし、彼女たちに恨まれたくないから。と。

サニアと一緒にいれば、僕が何をしたらいいのかの答えが見つかるかもしれないと思ったんだけど、やはりそれは自分で見つけなければならないのだろう。


僕がこの惑星でやっている土壌調査は順調と言えるのかどうかわからないけど、最初に撒いた大豆は紫色の小さな花をつけた。

その花びらはとても薄くて柔らかい。 

僕が高校生になってすぐ、勤めていた工場の事故で父親が死んだ。お葬式に、工場の偉い人が花を持ってきてくれた。僕が生の花を見たのはその時が初めてだった。

その白い花は涼しく淋しい香りがした。どうしてこれから実をつけるはずの花を切って死者に手向けるのか、その時はわからなかった。


父が死んだ時、母はお葬式の手配よりも先にもう1回り小さいアパートに引っ越す手続きをして、1日16時間働いて、たまたま父が死んだのが僕の高校の学費を一括で払った後だったから、僕はなんとか高校を卒業することができた。

それを見て、周囲の人たちは運がよかったと言った。父と同じ事故で怪我をした人は、以前と同じように働くことができなくなって、まだ小さい子供もいたのに、一家そろって貧民窟に落ちたらしい。


やはりこの世界は間違っているのだろうか。その中にいた時は、周囲もみんな同じようなものだったから、何も思わずに生活していたけれど。


結局、大豆の花はその付け根にできるはずのさやが成長することも無く、茶色く縮んで枯れてしまい、次のパートナーチェンジの日がやってきた。

僕は最後の日にユウミに「ユウミと出会えてとても新鮮だった」と言う事ができた。


僕は何をするべきなのかの答えは見つかっていないし、サニアとペアになることは断られたし、それはまあいいや、どうせ全員と1回ペアになるんだから。

僕には1000万コイン狙いの誰かが声をかけてくるだろう。彼女らは子供ができるのは運と相性だと教えられてそう信じているだけで、僕だってこの間までそう信じていた。

故郷の惑星に帰ると、妊娠すると子供が3歳になるまで仕事ができないから、妊娠期間をこの惑星で過ごしたい、そのために1ヶ月でも早く妊娠したいと考えるのは当然で、そういうことなら僕なんかよりちゃんと先のことを考えていると言える。


パートナーチェンジの前の最後の夕食が終わって、僕は何をするでもなく、みんなの方をぼーっと眺めていた。

と、なにか言い争うような声が聞こえた。振り返ると、ニコラがフランに何か言ってて、フランはあからさまにイヤそうな顔をしている。

ペアになるとかならないとかそんなことだろう。こういう揉め事にはあまりかかわりたくないな、と思った時、フランと目が合ってしまった。

僕に助けを求めるようなフランの目。

「フランはイヤがっているように見えるけど」

僕はニコラに声をかけていた。フランは僕の背後に回って、僕の上着の裾を掴んでいる。

ニコラは僕を頭の先から足の先まで眺めてから無言で行ってしまった。


「えっと、大丈夫?」

僕がそう言って、フランはあわてて掴んでいた僕の上着の裾を離した。フランってば、かわいいなぁ。


なんか、その流れでフランとペアになることになってしまった。まあ、フランともいつかはペアになるわけだからいいんだけど。

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