第43話 焼印
夜と朝と。僕とユウミは毎日2回3回と任務をこなしていた。そういうことの回数が多ければ子供が出来やすいというのは故郷の惑星ではそうかもしれないけどこの惑星ではそれは当てはまらないんじゃないかとさすがに僕も思い始めていたけれど、ユウミがそういうことを望むのなら僕はそれを否定することはない。
しかし、作業のほうは難航していた。プランターに植えた大豆には毎日決まった量の水をやってそれは順調に大きくなっていたけど、草の根の周りで見つけた何かは、根をほぐしてよく見ようとしてもあっという間に乾いてしまい、そうなると顕微鏡で見てもくしゃくしゃになった紙袋のようなものが見えるだけだった。
これに改善策を示してくれたのはサニアだった。僕が顕微鏡の前で苦労していたら、ラボにやって来たサニアが、水の中で根をほぐしたらいいと思う、と言ってくれたんだ。
そうやって見えたものは、草とは別の細胞のようで、それはこの惑星の土の中に存在して草の成長を助けているものであるらしかった。
それが、この惑星に元々生えている草だけではなく、故郷の惑星から持ってきた植物の成長にも関与しているように思える。
ケイトはすごいすごいと褒めてくれたけれど、全部サニアのおかげだ。サニアはやっぱりすごい。
とはいうものの、最近はケイトがしょっちゅうラボに来て顕微鏡を覗いていたりするもんだからサニアと例の陰謀論の話をする機会が無い。
サニアも積極的に僕と話す機会を作ってくれるというわけでもなく、もしかしたら僕があの話を誰にもしていないということで安心したのだろうか。もっともあの話は大きすぎて、僕たちがこんなところでごにょごにょ話したところでどうなるものでもない。だったら急ぐ必要もないというわけかな。
スッキリしないものを抱えながら、僕はその日も昼食後に洗濯干し場を見に行ったら、物干し場は空いていたけど、洗濯機のところにヤコブがいた。ヤコブも洗濯かな?と思ったけど違うらしい。洗濯機の後ろに回ったヤコブは洗濯機の蓋をはずしてしまった。
「何をしているんですか?」と僕が尋ねると、ヤコブは、
ああ、なんだか調子が悪いので修理をしているんだ。と答えた。
ケイトはヤコブは何でも出きると言ってたけど、洗濯機の修理まで出来るなんてすごいや。
「修理するところを見ててもいいですか?」
僕は特に機械が好きとか、故郷の惑星に帰ったらそういう方面の仕事に就きたいとか、そんなことを考えていたわけではないけれど、それでも洗濯機の中の機械を見れるなんてなかなかあることじゃない。
別にいいけど、とヤコブはテキパキと洗濯機の裏面のパネルも外してしまう。そしてヤコブが中のドラムを外そうとして洗濯機が少し傾いたはずみで、排水口に繋がっていたホースが外れてはねて、中に残っていた水が飛び出してばちゃりとヤコブの上着にかかった。
あ、反射的にヤコブが上着を脱いで、露になった彼の腕。
そこに僕は見つけてしまった。「不適格者」という文字。あれは焼印。
人間の皮膚に赤く焼けた金属の焼き鏝を押し付けて刻まれる焼印だった。
周りの空気が凍って時が止まった。
と思ったのは僕だけだった。
見られてしまったね。別に隠しているわけじゃないけれど、怖がる人もいるからね。
ヤコブは言う。確かに僕は固まってしまったけれど、びっくりしただけなんだ。
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