第37話 プロジェクト

次の日の朝から僕は、サニアに昨日の話しの続きが聞きたくて、わかりやすくラボの外で大豆の世話をしていた。

ケイトと一緒に採取してきた高湿地帯の土に撒いた大豆はもう芽を出している。乾燥地帯の土と低湿地帯の土に撒いた大豆が芽を出したのが2週間後で、こっちが芽を出したのが1週間だから半分の時間だ。そしてケイトが「草の根が残っている」と言った土を単にプランターに入れて置いたものからは草が次々に芽を出してもう5センチぐらいの長さになってわずかな風に揺れていた。


やっぱり草の繁殖力ってすごいわねぇ、いつの間にかやってきたケイトが言った。

これなら鶏に草を食べさせるという実験がいちいち草を取りに行かなくてもできそうね。

あ、僕は少し失望した。何故なら、鶏の世話担当はアウラで、鶏に草を食べさせるんならアウラと一緒に低湿地帯に草を取りに行く、そういう機会があるかもしれない、そう思っていたから。

ケイトはそんな僕をよそにテキパキとドクターとアウラを呼んできた。何故ドクター?と思ったけど、生き物、まあ鶏と豚だけど、生き物の責任者はドクターだということだ。

家具修理担当者にも協力を要請して、鶏小屋に仕切りを作り、草を食べさせる鶏を何羽か選んで隔離することになった。

草を食べさせた鶏の糞は別にしなくていいんですか?とアウラが聞いた。

ああ、できれば別枠で肥料にしたいねぇ、ケイトとドクターが話している。

じゃあサニアも呼んでくるよ、とドクターが行ってしまった。

なんでここにサニアが?と思ったけど、ここの鶏と豚の糞は熱処理して畑の肥料にしている。その肥料を作っているのがサニアの仕事だった。

あんまり似合わないな。サニアなら、水質調査とかそんなのの方が向いている気がした。


アウラとサニアの作業の手間は増えるけど、それは問題ないということで鶏小屋の改装が始まった。

僕は言い出しただけで今回一番なんにもしていないな。


その次の日、僕が一人でラボにいるところにサニアが来た。僕が彼女のところに行ってもよかったんだけど、サニアは畑の横の肥料熱処理装置のところにいるだろうし、そこで話をしていたら畑作業をしている人やそこを通る人に丸見えだ。


まあとにかく、サニアが来たので僕は疑問に思っていたことを聞いてみた。「どうして肥料の熱処理なんていう作業を選んだの?」って。

あー、あれね、希望を聞かれたのはここに来るまえでしょう?実際がどんな感じかわからなくて、でもでも肥料関係なら動物も作物も見れるかなと思ったから。

ここに来てみれば誰でも動物も作物も見放題だったけどね。

へぇー。すごくよく考えている。適当にラクそうだから、と土壌調査を選んだ僕とは大違いだ。


で、一昨日の続きなんだけど。

「うん」僕はサニアに向き直った。

私の仮定の話だけど、もちろん今まで誰にもそんなことを言ったことはないわ。

「うん、うん」僕は大きく頷いた。僕たちの常識では教えられる事は全て正しくて、そして教えられることが全てだから、教えられていないことを考えるとかそういうのは異端者のように思われる。

だけどここに来て、ここが想像していたより自由だったからかもね。ちらっとドクターに聞いてみたの。

「そしたら?」

そしたら、ドクターは「それはまだ科学的に証明されていない」と言ったの。

ああ、だからライブラリに接続して調べても出てこなかったのかな?

その言い方って引っかかると思わない?だって調べてもそんな話はひとつも出て来ないのよ。

「それは科学的に証明されていないからじゃないの?」

そんなことはないわ。他の話なら証明されていない説とか、過去にはそう考えられていたけど後で間違いだとわかった研究とかそういうのはぞろぞろ出てくるもの。

「じゃあどういうことなの?」

私、この話って隠されているんじゃないかと思うの。

「えええええ!?」

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