第33話 種馬
食堂の出入り口は建物の南側にあるから、食堂から直接敷地の北側にあるラボに行くには、食堂の東側、洗濯場と畑の間を通って行っても、食堂の西の鶏小屋と豚小屋の前を通って行っても距離はほとんど同じだ。西側を通ると、鶏小屋にいるアウラや豚小屋の近くにいるリザリィの顔を見れたりするということに気が付いてからは僕はほとんど西側を通っていく。
だけどその日東側を通ろうとしたのは、物干し場が空いていたら洗濯をしてもいいかなと思ったからだった。
リザリィも毎回僕の分の洗濯をしてくれるわけではないし、僕たちは毎日8時間の作業をするといってもタイムレコーダーがあるわけではない。そして、人数に対してちょっと物干し場が狭いのか、たいていはいっぱいで、いつかのように夜中に洗濯をしなきゃならなくなる。だから作業の合間とかにみんな洗濯や自分のコテージの掃除なんかをしている。
僕は食堂の入り口から建物の東側に曲がろうとして、
「リザリィが、、、」「妊娠、、、」
そんな声が聞こえたのでびっくりして思わず足を止めた。立ち聞きとかそんなつもりはなかったんだけど。
女の子が何人か物干し場で話しをしているようだった。
「リザリィは妊娠してないわよね」
うん、したら真っ先にあのトイレに仕込まれた試薬が反応するはずだ。心の中で突っ込みを入れる。
「あのジェイミィでもダメかぁ」
え、ここで僕の名前が出てくるのか。
「私も次のパートナーチェンジでジェイミィを狙おうと思ったんだけどさぁ」
「1000万コイン狙いでのジェイミィ狙い多いなぁ」
「妊娠できないならジェイミィじゃなくてもよくない?」
種馬扱いか。。。この前のパートナーチェンジの時、リザリィに連れて行かれて、僕ってモテるんだ、とか思ったわけじゃないけどさ。
あの時アウラもすぐに何人かに声をかけられていたのはそういうわけかと思うとなんだかイヤな気がした。
そして、そんなウワサをしている女の子たちの前を通る根性は無くて、やっぱり西側を通っていこうと回れ右をしようとしたら、
曲がり角からサニアが現れた。取り込んだばかりの洗濯物を抱えている。
聞いてたの?とサニアは小声で僕に聞いて、僕は黙って頷く。
サニアはそれ以上何を言うでもなく、自分のコテージの方へ行ってしまったので、僕もラボへ向かった。洗濯は、まあ夜でもいいしね。
せっかく食堂の西側を通ったのに、アウラもリザリィも姿が見えなかった。
いいんだけどね。
ラボには、水質調査をやっていて、ときどき一緒になるトラルも今日はいなくて、僕は独りデスクの前の椅子に座ってため息をついた。
別に、いいんだけどね。そもそもB計画は生殖実験なんだし。
でも僕はすぐに午後の予定に取り掛かる元気が無いぐらいに脱力していた。
コーラでも飲みに行こうかな。そう思った時、トントントン、とひそやかなノックの音がした。
ここは誰でも来れる場所だし、トラルも誰もノックなんかしない。
でも僕は反射的に「どうぞ」と言っていた。
顔を覗かせたのはサニアだった。
ジェイミィ、さっき話していたことなんだけど。。。
彼女は僕が気を悪くしていると思って謝りに来たのだろうか?
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