第32話 階級

その夜、コテージに戻るとすぐに僕はリザリィに追い立てられた、

さっさとシャワーを浴びてきなさい。ドロだらけじゃないの。着ているものも脱いで。私、今から洗濯しに行くから一緒に洗ってきてあげる。と下着まで脱がされた。

口では「キャー」とか言いながら僕は抵抗しない。何故だろう、リザリィにはすごく甘えられる。細かい砂が髪のなかまで入り込んでいるので、僕は2回目のシャンプーをしながらリザリィを想う。


僕がシャワールームから出て、濡れた髪をタオルでゴシゴシ拭いているとリザリィが戻ってきた。シャワールームにドライヤーはあるけど、僕の髪は短いから使う必要はあまり無い。

リザリィは「ただいま」と言ってそのままシャワールームに入り、中からゴォーっとドライヤーの音が聞こえてきた。「何をしてるの?」と覗くと、リザリィは僕の靴まで洗ってくれていて、それをドライヤーで乾かしていた。

「ありがとう」僕は思わずしゃがんでいるリザリィを背中から抱きしめ、たつもりがしがみつくようになってしまって、もう、尻餅ついちゃうじゃない。

怒られた。


こうやって8割ぐらい乾かしておけば明日の朝には乾くから、とリザリィは僕の靴を玄関に戻しながら、私、ソーダを入れてくるわ、ジェイミィは?と聞いてくれるのでありがたく「コーラ」と答える。


ここの生活は幸せで、故郷の惑星に帰ったらその後の生活がツライのではないかと思えるほどだ。まず労働時間が任務を別にすると8時間だ。これはすごい。故郷に帰ったら、12時間、場合によっては16時間働かないと厳しいだろう。それから、合成パンと言っても焼きたては美味しいし、野菜だって食べられる。

参加報酬の500万コインで専門学校に行って技術者階級になれば今ぐらいの生活はできるだろうか?ケイトは家賃が高いとか養育費が高いとか言ってたけど、高価そうな本物のガラスのグラスを持っていた。リザリィだって、さっきドライヤーで靴を乾かしてくれた。そりゃここでは電気代を直接請求されるわけではないけど、中流階級ならあの発想は出てこないと思う。そもそも中流階級の家庭にドライヤーは普及してなくて、僕だって使ったのは理髪店で髪を切ってもらった時、それも高校の入学式の前とここの惑星に来る前の2回だけだ。


それから、リザリィもシャワーを浴びるとベッドでまず任務、じゃなくてリザリィが僕の足をマッサージしてくれた。「今日は8時間も歩いたって、大変だったでしょう?」

うん、まあ少しは。それにしても気持ちいいな。

私、やっぱり医療系に進みたいかも。マッサージを続けながらリザリィが言う。看護師は大変そうだから、薬剤師か検査技師ね。僕にはその違いがよくわからない。

生まれた時を別にすれば、僕は1回しか病院に行ったことがないんだ。それも小学校に入る前の小さい時だったから、階段から落ちて耳の上を切った僕の傷を縫ってくれた医者と「泣かないで」と言ってくれた看護師さんしか覚えていなかった。


ねえ、ジェィミィはどうしてB計画に参加しようと思ったの?リザリィが聞く。

僕はリザリィの手が気持ちよくでもう少しで眠ってしまうとことだったけど、ちょっと躊躇いながらエリナの話をした。

ちゃんと自分の将来のことを考えているリザリィにそんな理由で?と思われるのはちょっと情けない気もしたけど、アウラには言わなかった「母親の小言から逃げたかった」ということまで言ってしまった。うん、それはわかるわぁ、とリザリィは言って、そこはわかるのか、僕はちょっと意外だった。


でも。とリザリィは言った。故郷の惑星に帰って、そのエリスって子と結婚するなら参加報酬の500万コインで専門学校に行って技術者階級になろうとかは考えないほうがいいわよ。

階級が違うもの同士の結婚は幸せにはなれない。それはリザリィの信念みたいなものなんだろうな。中流階級と技術者階級は階級格差の中でも一番差が小さいと思っていたけど。

それと、リザリィはエリナの名前を間違えた。それが本当に間違えたのかわざとなのかはわからなかった。

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