第31話 高湿地帯

緑。


圧倒的な緑。

さらに2時間歩いてようやく着いた高湿地帯は、一面の緑だった。


いつか低湿地帯で見た草より緑の色が濃いように思うのは密生しているからだろうか。草原は風が吹くとサワサワと音がして一斉に揺れる。

豊かな緑を見ていると、この惑星でB計画を実施しようと考えた人の思いがわかるようだった。ここなら、人類か子供を生んで育てることができるかもしれないと。


目が痛くなるような緑を眺めながら、乾いた土に座って僕たちは昼食を食べた。

ヤコブが持たせてくれた丸いパンには合成ソーセージを薄く切ったものとキャベツを一緒に炒めたものが挟んであって、ケイトもすごーいと喜んでいたし、やっぱり合成でも何でも肉は正義だ。


さて、高湿地帯と乾燥地帯の境目ははっきりしていて、例えるなら池とその周りの地面という感じだったけど、土を採取するのにはちょっと手間取った。

僕がバケツを持って気軽に高湿地帯に入ろうとしたらケイトが止めた。そして自分の荷物からロープを取り出すとその端を自分と僕のウエストに慎重に結びつけて、私が行きます。と言った。

もしジェイミィが足をとられたら私ではジェイミィを引き上げれないかもしれないし、私の方が多分軽いから、と僕をちらっと見た。

どうせ僕はチビですよ。でも腕力はジェイミィの方があるでしょ。とそっと高湿地帯に入っていく。と、ケイトの足が足首まで沈む。あらら、思ってたより危険だ。

どうにかバケツに2杯の土を採取して、僕はもう少し高湿地帯の緑とその上に吹く青い風を眺めていたかったけど暗くならないうちに帰り着いたほうがいいと出発した。


バケツには草の根も入ってるから、水をやれば草も栽培できるわ。重いバケツを1つづつ持っているのにケイトは元気だ。

元気だったはずなんだけど、しばらく歩くとケイトが小さい声で、あのジェイミィ、お願いがあるの。と言い出した。

「あ、バケツは僕が持ちますよ」と手を出したら、そうじゃないの。200メートルぐらい先に行ってそこで待っててくれないかしら?すぐに追いつくから。

?と思いながらも僕は言われた通りにする。指示に従うのは僕らの習慣のようになっている。

けれど僕は1人歩き始めてすぐに気が付いた。なんだ、トイレか。

お待たせー、と追いついてきたケイトを見て、さっきの小さい声で言いにくそうにしていたケイトはかわいかったなぁ、とちょっとからかってみたくなったけど、

僕はがまんして無難そうな話題をさがす。


「ケイトはどうしてこの惑星で働こうと思ったんですか?」

見当はつくと思うけど、私、離婚したの。なんだかんだあって、結局娘はあっちに置いてきたんだけど、養育費って高いのよ。

それは知っている。リザリィもそんなことを言っていた。

で、単身者用のアパートも高いんだけど、家賃が少しは安い中流階級向けのアパートに行けばなんとかなるんじゃないかと思ってたんだけど。

あ、なるほど。

でもねえ、技術者階級の者が1人中流階級向けのアパートで暮らすのは厳しかったわ。直接イヤミを言う人もいたし、まあいろいろとね。

ご近所さんにイビられたりしたんだろうか。「ヒドイなぁ」僕はそう言ったけれど。

ある意味しょうがないんじゃない?自分とは違う人にしか不満をぶつけられないし。そんな時にここに来る話があって、

「ここの給料はいいんですか?」

故郷の惑星で普通に技術者階級として働くのと同じよ。でも家賃と食費がいらないから実質だいぶ高いわね。

とはいうけど、家族を持っている人はなかなか来たがらないし、私にはラッキーだったけど。

ここに来てしまえば娘に会えないのもしょうがないと思えるもの。近くにいるのに会えないのはつらいから。


ということは、所長やドクターやヤコブもみんなそれぞれに事情を抱えているのだろうか?

それでね、最初は私もヤコブの仕事を手伝うはずだったんだけど、あの人なんでも出来ちゃうのよねぇ。

「そうですね、料理も美味しいし」

そうなの。ヤコブは以前は上流階級の人が何かの記念日に行くようなレストランでコックをしたそうよ。

へぇえー。  

それで、思ってたより時間があるし、ここでは植物の種を撒くと普通に育つし、だから、植物の研究を始めたの。穀物と大豆に実が生れば、世界はもうちょっと幸せになれると思う。

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