第34話 サニア

さっきの話なら僕は別に気にしていないよ、そう言おうとしたんだけど、サニアは部屋に入ってきて、ほかに誰もいないかを見回してからドアを閉めた。

ちょっと聞いておきたいことがあって、とサニアは、部屋の隅の本棚から何冊か紙の本を選んで取り出し、本を僕の隣のデスクに広げて、自分のノートも広げ、それから僕の隣の椅子に座った。

これで大丈夫、調べものをしているように見えるわ。そう言うサニアに、別に僕とちょっとここで話していたとしても誰も作業をサボっているとか思わないし、僕たち24人のこの惑星のB計画の参加者は仲のいいクラスメイトという感じで誰かと誰かが2人で話していたって誰もなんとも思わないと思うけど。

うんまあ、念のため。


僕はサニアの意図がよくわからなかった。

あのね、ジェイミィ。

僕を真っ直ぐに見るサニアの切れ長の瞳。ストレートの前髪は目の上で、サイドと後ろの髪はあごのラインで揃えてあった。よく見るとサニアは美人だ。

アウラとは狙ってヤッたの?

美人のクチからそんな言葉が出た。それに対して僕は、へぁ?とかそんな間抜けな声を出した。

1000万コイン狙いのリザリィとは最初の夜には積極的にはそういうことをしようとしなかったんでしょう?

えっと、何を言ってるのかわかりませんけど?


あっ。その時僕の頭の中で警報音が鳴り響いた。


サニアは何かを疑っているのか?何かを知っているのか?僕があの時のアウラの子供の父親じゃないということを。

サニアは「聞いておきたいことがある」と言った。ということはまだ彼女の中でも疑いの段階だということか。だったら所長に何か言う前にまず僕のところに確認に来たということだろうか。

そのあとサニアはどうするつもりだ?所長に告げ口?僕を脅してもあんまりメリットがないしな。でも他人が得をすることが嫌な人間はいっぱいいる。サニアはどうなんだ。

僕たち24人は普通に仲がいいと言っても僕はサニアの性格を知っているといえるほど親しいわけではない。サニアはどちらかというと無口だし、僕たちは挨拶や世間話はするけれど、それ以上突っ込んだ話をしたことはない。


サニアがあのことを疑っているとしたら、僕に出来ることは2つだ。シラを切りとおすか、認めた上で口止めをするか。2つ目はリスクが大きい。サニアにメリットがない。できるだけとぼけてみるか。


僕は黙ってサニアを見返した。お互いに相手が何を考えているのか探るように。それは、古い映画で見た、お互いに剣を構えた剣士が相手の出方を探り合うような瞬間だった。


サニアは「アウラとは狙ってしたのか」と聞いた。それはアウラに妊娠反応が出た時期から考えてとても早い段階にそういうことをしたのだろうという意味だろうな。

それに対して、妊娠希望のリザリィとは最初の夜に僕がそういうことをしようとしなかったのかのは何故かと言った。まあ結局は最初の夜からそういうことをしているんだけど、今コレは関係なさそうだ。あれ?サニアは僕がアウラとリザリィを差別したと言いたいのか?サニアはリザリィとそんなに仲がよかったっけ?それなら安心だけど、いやいや、最悪を想定しておいたほうがいい。


「サニアは何を知っているの?」

ジェイミィも知っていたの?


僕たちが声を出したのはほとんど同時だった。


あの、えーっと、サニアが言いよどむ。

僕はサニアの言葉を待った。


ジェイミィはいつそういうことをしたら子供ができると思っているの?

「え、いつって、あの、夜、かな?」


。。。

僕の答えを聞いた瞬間サニアの目に失望の色が浮かんだ。


えっと、どういうこと?

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