第23話 とまどいの後

次の朝、いつものようにコーヒーを飲んで、僕たちが食堂に行くと所長が淡々とアウラの流産を報告し悲鳴のような声が上がる。その後何日かは僕たちは腫れ物に触るような扱いを受け、2日後アウラと僕はドクターに呼ばれた。

まさかバレてないよね?ちょっとビクビクしながら診察室に行くと、ドクターはちょっとアウラを診て、「もう大丈夫、普通の生活に戻っていいよ」と言った。

「ふつうのせいかつ?」アウラはもう鶏小屋の掃除だってしているんだけど、と思った僕にドクターは「本来の任務に戻って大丈夫という意味です」あっさりと言った。


その夜、シャワールームから出てきたアウラは今夜も黄色のヘアゴムで髪を1つに束ねていて、最初の夜と同じだ。何も知らなかったあの頃に戻りたいという訳じゃないけど。


アウラに続いてシャワーを浴びながら僕は故郷の惑星のことを思い出していた。

あの惑星ではアパートの部屋の広さに応じて水道の使用量に制限があって、その日の制限量を超えると容赦なく水が止まってしまう。例えシャワーの途中で身体が泡だらけであっても。

幸い僕はそんな経験はなかったけど、女の子が2人だと大変なのよ、と知り合いの奥さんが言ってた、という話を母に聞いたことがある。もっとも、母の話はだからジェイミィも水は節約して、と続くんだけど。

B計画が成功して人類が他の惑星にも住めるようになったら、人は幸せになれるのだろうか?


僕がシャワールームから出てくると、アウラはラボから借りてきた紙の本を見ていて、キレイな横顔をこちらに見せている。


その横顔に向かって僕はようやく言えた。


あの、もしアウラがイヤじゃなかったら。そう言う僕にアウラはわずかに微笑んでくれて。

だから、僕は、その夜この惑星に来て初めてベッドで眠った。


とまどいと喜びと激情の後。


僕の隣に横たわるアウラは眠っているかのように目を閉じている。その肩に触れると少し冷たくて、でもそれは不快な感じではなく気持ちがいい。

僕より体温が低いのだろうか?

激情が去った後なぜだか寂しくなった気がして、僕はアウラを強く抱きしめる。「ジェイミィ、苦しい」眠っていると思ったアウラがそう言った。

ごめん、僕はあわてて腕の力をゆるめる。


さっき誰よりもアウラと近くなれたと思ったのに、この微かな痛みを伴うような感情は何だろう。

僕はその正体を探ろうとしたけれど、どんなに鮮やかに見ていた夢も起きた瞬間に記憶から零れ落ちるように忘れていく。そんな風に追いかけると消えていく感情。

それはやっぱり「寂しい」といえばいいのだろうか。


僕は腕の中にアウラと孤独の2つを抱いて眠る。

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