第22話 星空

すっぱーい!

ヤコブが持たせてくれた赤いジャムはとても酸っぱくて、小さい袋に入って売っている合成イチゴジャムしか食べたことがない僕たちはびっくりする。

世の中にこんなに酸っぱいものがあるなんて。そもそもルバーブって何なの?

僕はリビングからタブレット端末を持って来て調べた。葉が緑で茎が赤い野菜らしい。へぇー、アウラも珍しそうに覗き込む。

僕たちにはまだ知らない事が沢山ある。


午後、アウラが少し眠ると言うので僕はその間に鶏にエサと水をやりに行った。幸い誰にも会わなかった。別に逃げ隠れする必要もないけど、出来れば誰にも顔を合わせたくなかった僕は鶏に急いでエサをやろうとするけど、鶏は意外と凶暴で僕をつつこうとする。


夕方、僕たちのコテージにドクターがやって来て僕はまたリビングに出されてしまう。

子供は無事に流れてしまったのだろうか。

さっきアウラと「今朝と昼のドクターの顔を見たらわかる、絶対大丈夫よ」という話をしたばかりだけど。


だいぶたって、僕はドクターに呼ばれ、寝室に行くとアウラはベッドの上に起き上がっていた。


ドクターは「残念ながら子供は流れてしまったようです」と静かに言った。

アウラとジェイミィにはなんと言ったらいいか、、、私の力がおよばずに申し訳ない。さらに何か言おうとするドクターにアウラが

「それは子供に問題があったということでしょうか?」と聞いた。

全部流れていってしまったからね、今となってはもう調べようがないよ。

「ああ!」とアウラは両手で顔を覆ってしまった。僕はそれがドクターに今の顔を見られたくないからだと思った。

ドクターはアウラが泣き出したと思ったのか、アウラのせいじゃないしジェイミィのせいでもない。故郷の惑星でだって妊娠初期の自然流産はよくあることだし、

だいたいこの惑星で受精して一旦は着床したんだ。それだけでも充分すごいことだよ。


あまりにもドクターが気を落としているので僕は、ドクターのせいでもありませんよ、ありがとうございました。

そう言ったら、もう起き上がって歩いても大丈夫。お腹の中はキレイだったから出血はもう少なくなって止まると思うけど、量が増えたり鮮血になったりしたらすぐに来てください。

それからシャワーもOK、それから、、、

アウラにくどくどと注意をして、寝室に置きっぱなしになっていたあの機械を持ってヨタヨタと帰っていった。


ドクターが玄関のドアを閉める音を聞いて、僕とアウラは顔を見合わせて。

ガッツポーズをするのもヘンだし抱き合うのも違う気がして、結局握手をした。


僕たちは夜中になってからアウラが隠していたタオルを洗濯しに外に出た。今夜は雨も降っていずに、月が無いこの惑星の満天の星空。

子供がダメになってほっとしているのはこの惑星にいる人と、他の惑星でB計画に参加している残りの96人、スタッフたち、故郷の惑星の沢山の人、その中で僕たち2人だけだと思うとなんだかこの星空の中に落ちていくような、身体の回りのものが全て無くなってしまったようなうすら寒くなるような感覚だった。

全宇宙の人を騙しちゃったね、僕がそう言うとアウラは、巻き込んじゃってごめんなさい、謝ったけど。

僕はアウラが罪に問われることに比べたら全宇宙なんてどうでもよかった。

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