第20話 アウラの企み

次の夜も、おかしな話だけど僕たちはコテージに戻って二人きりになるとほっとした。

結論の出ない話に話し疲れた僕たちはコーヒーを飲みながら映画を観ることにした。


もっとも僕たちの故郷の惑星では長いこと映画なんか作られていなかった。撮影する場所がないのだ。TVドラマはいくつか作られたけど、学校や家庭が舞台の地味な面白くないものだった。

ただ、アニメーションは撮影するのに広い場所が必要じゃないからいくつかまともなものがある。僕たちは冒険物のようなアニメーション映画を観ることにした。

映画の中の、超高級家具の材料になる木が沢山生えている森の中をナイフを持って疾走するお姫様はかっこよくて美しい。


映画の途中でアウラは小さく、あっ、と席を立ってトイレに向かう。

しばらくして出てきたアウラは感情の無い声で「出血した」と言った。

「大変!ドクターを呼んでくる」という僕をアウラは制止する。


待って、それはちょっと待って。

「これは、子供が流れかけているんだわ」アウラはリビングをうろうろと歩き回る。

えー、横になってた方がよくない?

このままにしていたら自然に流れてしまうんじゃないかしら。だから今ドクターに治療なんかされたら流れずに留まってしまう。

あの、それは水を浴びたから?

そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。でも本当に生まれても生きていけないような子供は自然に流れてしまうの。

僕はアウラの身体が心配だよ。それで子供が流れてしまったとしてもその後もう妊娠できなくなっちゃったりとかしないの?

僕はそんな話を聞いたことがある。あれは、マーケットで水を買うために並んでいたレジ待ちの列で、僕の後ろに並んでいた女性たちのウワサ話だ。その女性の知り合いが、子供を闇の川の向こうに流したのが原因でもう妊娠できなくなったとか何とか。

じゃあもうすぐ夢の国に行かされるの?それが流したのは2人目の子供だからそうはならないって。なーんだツマンナイ。他人の不幸は彼女らの大好物だ。


その後で妊娠出来なくなったという話は強制堕胎だったんじゃない?

え、病院でやるんだからそっちの方が安全だと思ってたよ。僕には知らない事がまだ沢山ある。


だいたい今まで妊娠した動物を他の惑星に連れて行ってもみんな流産しているのよ。私が妊娠していたとして、それが継続するなんて考えるほうがおかしいのよ。

それはまたB計画に根本的に疑問をいだく考え方だよね。

僕たちは少し笑った。


アウラがありったけのタオルを出してきて、また夜中に洗濯に行かなきゃならなくなるかもだけど、とそれをソファの上に重ねて敷いてその上に座る。

出血ってそんなに多いの?僕は不安になる。

今は少しだけど念のため。


だからジェイミィ聞いて。このまま、全部流れてしまうのを待つわ。流れ出たものをドクターに調べられたらジェイミィが父親ではないということがわかってしまうかもしれないから、それを処分してからドクターを呼ぶの。

それがうまく行けば、私は普通にジェイミィの子供を妊娠して流産したことになるわ。

そんなにうまく行くかな?そう言う僕にアウラは言った。

「うまくやる、のよ」

その言葉を聞いた瞬間、僕はアウラを尊敬した。それまでは、アウラに同情していた部分が大きかったけれども。

「アウラ姉さんにどこまでも付いて行きます」冗談のように言いながら僕は本当にそんな気持ちだった。そして僕も心を決めた。


もう1度アウラがトイレに行こうとするから、「トイレじゃなくてシャワールームに行った方がいい」僕は先日の音声と音楽はトイレに試薬かなにかが仕込まれていたんじゃないかという僕の考えを言った。

やるわねぇ、とアウラは、ついでにシャワーも浴びてくるとシャワールームに行く。その姿はさっきの映画のお姫様のように強くてかっこいい。

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