第19話 僕の子供
翌朝、朝食を受け取るためにカウンターに並んでいた僕に「ジェイミィやるねぇ」「どうやってアウラを一発で妊娠させたんだい?」と無遠慮な声がかかる。その中には小さな棘が沢山あって全部それがこっちを向いている。
僕の母親が言っていたのはこういうことなんだと改めて僕は思う。普通の人生を送って欲しいと。少しでも目立つと足を引っ張られるからと。
そんな僕の思いを知ってか知らずか、所長のリリシャが話し始めた。彼は博学で、食事の時に僕たちにいろんな話をしてくれる。
私のリリシャという名前を聞いて女みたいだと思った人はいますか?あちこちでクスクスと笑い声が漏れる。みんなそう思っていたんだ。
でもこれには意味があるのです。リリシャは続ける。私は予定日より早く、小さく生まれました。両親は私が健康に育つか心配して私にリリシャと名付けました。男の子に女の子の名前を付けると丈夫に育つという古い言い伝えがあるのです。
あと、この中ではアレクとアウラですね。アルファベットの最初の文字である「A」で始まる名前を最初の子供に付けるのは、待ち望んでいた大切な子供、という意味からです。このように名前には両親の思いや願いが込められているのです。
みんな故郷の惑星の両親のことを思い出したのかしんみりしてしまった。
あ、そうだ、それともう1つ。鶏の世話をしてくれているアウラの作業なんですが、故郷の惑星には、企業は妊娠中と子供が3歳になるまでの女性を雇用することを禁じるというルールがあります。
なのでアウラの作業、、、
「僕がやります」僕は所長の言葉を遮った。また囃し立てられたけどそこはスルーだ。僕はアウラに何もしてあげられないからこれぐらいは、と思ったんだけど。
ありがとう、ジェイミィ。でもここは一般の企業とは違うので、アウラには身体に無理がない範囲で続けてもらいます。もしキツくなったらその時はお願いしますね、と所長に言われて、僕は滑ってしまった。
ま、故郷の惑星でも女たちは妊娠してクビになっても内職とかはしてるしね。することがなくなるというのも退屈なのかもな。今僕たちがそれぞれやっている作業だって退屈しないように、ということなのかも知れない。
それでもその日僕はアウラに鶏の世話の仕方を教えてもらうという名目でアウラと一緒に過ごした。見張ってなくても大丈夫よ、とアウラは言ったけど。
けれど人目があるので昨夜の話の続きはできない。僕たちは鶏小屋を掃除したり、肥料にするという鶏のフンを畑に持って行ったりしながら夜を待った。
夜になってコテージに戻ると、僕たちはコーヒーを飲みながら、共犯者のように話し合う。
話し合うといっても僕の心配はアウラのことだ。もしバレたら。
どんなに隠したって羊水検査でわかってしまう。羊水検査は妊娠した全ての女性に義務付けられているもので、妊娠16週から18週のあいだに行われる。
そこで胎児に生まれても生きていけないぐらいの重い障害や病気が見つかれば生まれる前に闇の川の向こうに流される。それから羊水検査では父親が違うという問題が発覚することもある。
そんなときはどうなるの?僕はアウラに聞く。
子供は強制堕胎、母親は強制労働ね。父親、というか父親じゃなかった人はうーん、本当は自分が父親じゃないと知らなかったら財産没収ぐらいで済むんじゃない?
なんか女性に厳しい気がするなぁ。だからジェイミィも黙っていて。何も知らなかったということにして。
うん、でも本当の父親はどうなるの?探しようがないんじゃないかしら?
ここでボソボソと何を話したところでどうすればいいのかの結論が出るわけでもなくて。
僕の子供ならよかったのに。
最初のころアウラが僕を拒んでいたのは、自分が妊娠していないことを確認してからと思っていたのではないだろうか?万が一のことを考えて。
アウラは独りでそんな事を考えていたのだろうか。ずっと独りで。
ああ、本当に、僕の子供ならよかったのに。
だから僕は言った。
「この子は僕の子供だ」
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