第15話 シークレットチャイルド
その夜コテージに戻ってきて、夕食後は2人でコーヒーを飲むというのがすっかり習慣になっていた僕はコーヒーを淹れようとして。あ、妊婦にコーヒーはダメだっけ?
そう言う僕の言い方はすごく嫌味ったらしかったに違いない。アウラは、それ、デカフェよ、カフェインは含まれてないわ。しれっとそんなことを言う。
全く、B計画のシステムは誰が考えたのか知らないけどイヤになるほど用意がいい。
僕は憮然としたままコーヒーを飲み、アウラは「長い話になるけど」と語り始めた。
「私、シークレットチャイルドなの」
その言葉に僕は天地がひっくり返るほどびっくりした。私、本当は男なの。そう言われたほうがまだマシだったかもしれない。
シークレットチャイルド、それは聞くのも禍々しい、口にするのも恐ろしい言葉だった。
僕たちの故郷の惑星では厳しい制限がされていて、1組の夫婦が持てる子供の数は1人か2人。それは離婚して他の人と再婚しても適応されて、1人の人が持つことができる子供の数は1人か2人で、でも子供を持たないということも許されなくて、違反すると厳しい罰則が待っていた。
ただ、少数ながら子供を作れない夫婦が存在する。だったら、3人目の子供を産んでしまった夫婦からその子供を引き取って育てればいいのでは?
これは誰でも考え付くことだと思う。だけどそれは許されないことだった。あの人が3人目の子供を作るなんてずるい。妊娠出産というリスクをとらずに子供を育てるなんて不公平。
公平と平等は正義だった。
それでも、3人目の子供が、子供を作れなかった夫婦にこっそり引き取られることはある。いろんな検査やら制限のどんな抜け道を通ったのかは知らないけれど、そういう子供はシークレットチャイルドと呼ばれた。
今から7.8年前、僕はまだ小学生だったから8年前だ。シークレットチャイルドの斡旋組織が摘発された。もちろん犯罪だし重罪だ。組織の人間はもちろん、子供を引き渡した親や引き取った親も何十人もが逮捕されて強制労働が課せられた。TVは連日そのニュースを伝え、普通の人々は、3人目の子供を作るなんておかしい、子供ができない不適格者なのは自分のせいなのにそれを隠して他人の子供を育てようなんて極悪人だと石を投げた。彼らはヘイトの対象になったのだ。僕たち子供は、親を連れ去られて泣き叫ぶ子供たちの映像を恐怖に震えながら見た。そしてルールを破るのはいけないことだと深く心に刻んだ。それから、シークレットチャイルドに関する規制はますます厳しくなった。
アウラが生まれたのは18年前だから、今よりは規制がゆるかったのかもしれないけれど。
アウラは続ける。私の育ての両親は30歳になってもまだ子供が作れずにいた。そんな時、育ての母親の母親がどこかから3人目の子供を妊娠してしまった産みの両親を探してきたの。
祖母は2組の親のIDと名前を入れ替え、誰も知った人がいない町に引越しをさせた。
後で育ての母親は言ったわ。「私はあの女の名前で1日16時間働いて、その給料は全部持っていかれた」って。
「しかもあの女は自分の夫の名前で内職までして、その給料も自分たちのものにした」うーん、それが10か月分なら結構な金額になるだろう。
それが私を売った代金だったんだと思うわ。私は本当の両親と一緒なら貧民窟でもよかったのに!
そして産みの両親は育ての両親のIDで羊水検査をパスして私を産んだ。1週間後に私は引き渡され、2組の家族は元の名前に戻ってまた知らない場所に引っ越した。
それをアウラの祖母という人が全部手配したのなら、彼女は頭がいいなと僕は思ったけれど黙っていた。そして何より、自分の娘のためとはいえ、そこまでできる人はなかなかいないんじゃないかな。見つかれば自分だって罪人だ。
そしてそれだけで終わっていたなら、私は育ての両親の1人娘として、愛されなかったかもだけど普通に育てられたと思うの。
だけど話はそこで終わらなかった。
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