第13話 コングラチュレイション

翌朝、アウラが起きてきて、僕がまだ横になっているのをチラッと見て真っ直ぐトイレに向かう。起きたらすぐにトイレに行くのはアウラの習慣のようなものだ。

男は起きてすぐにはトイレに行けない。5分か10分ぐらいは待たないと。

お腹はもうすっかり治ったようだし、僕もそろそろ起きないと、と思っていたら。


「コングラチュレイショーン!」


突然大音響が響き渡った。続いてランララララララン、と素っ頓狂な音楽。


きゃーっ、とアウラがトイレから飛び出してきて、これは何なの?と僕の顔を見る。

トイレから聞こえてきたという僕に、便器から聞こえたというアウラ。

便器だって?と今は静かになったトイレを見に行こうとしたら、今度は玄関のドアが激しくノックされた。


なにごとかとドアを開けると、そこには満面の笑みをたたえたドクターがいた。

「おめでとうジェイミィ!」と彼は僕に抱きついた後、ずんずん中に進んでアウラの両手を取った。

「やったね、アウラ。妊娠反応がでたよ」

ええええーっ?


驚く僕をドクターは華麗にスルーして、詳しい検査をしようね、とパジャマ姿のままのアウラを拉致していった。

アウラもわけがわからないままドクターに引っ張られて行った。「待って、まだ手を洗っていない」と叫んでいたような気がする。


えっと、どういうこと?妊娠反応と聞こえたんだけど、僕はまだアウラになにもしていないよ?

残された僕はもそもそと着替えて顔を洗う。その時すぐにアウラとドクターを追いかければよかったと思ったのは後になってからだった。

ドクターは、ジェイミィは先に食堂へ行っててと言い残したし、年長者の指示には従うというのは僕たちがしつこく教えられてきたことだったから、僕は素直に食堂に行った。


食堂に向かう途中で1組のペアと一緒になった。タキタとフランだったかな、まあ名前はどうでもいいや、彼らは、アウラは?と聞いてきて、

僕は「ドクターのところ」と答えて、まあウソは言っていない。

あ、あれよ、昨日ドクターが言ってたやつ。お腹の調子かぁ。

ごめん、アウラ。アウラは下痢の人と認識されてしまった。


僕は急いで朝食を終え、ラボの中の診察室へ行ってみたけどそこにはアウラもドクターもいなかった。

ドクターのコテージをノックして、それから僕たちの12番のコテージにも行ってみたけどそこにもいない。

それから僕はもう一度診察室を見て2人がいないのを確認すると、ラボにあるライブラリに繋がっているタブレット端末で妊娠反応について調べてみた。

女性は妊娠するとなんとかいうホルモンが体内で作られ、尿中のそれの濃度を測定することによって妊娠の有無がわかります。

はっ、そういうことか。コテージのトイレに試薬かなにかが仕込まれていたのか。僕は怒りで身体が熱くなった。

所詮僕たちは実験動物なんだ。どんなに待遇がよくても。本物フライドチキンやドライヤーに喜んだのが馬鹿みたいだ。

所長やドクターやケイトやヤコブがどんなにいい人だって、彼らは仕事をしているにすぎない。

僕は怒りを通り越してやるせなくなった。


しかし、続きを読むと。

早期の場合、実際は妊娠していても反応がでないことがあります。

これか!

やっぱりなにかの間違いなんだ。そうだ、間違いに違いない。そっかー、間違いかぁ。

僕は嬉しそうな顔をしていたドクターに対して、ザマミロとさえ思った。


午前中をラボで過ごして昼食のため食堂へ向かった僕を追い越していった一団が、

「ジェイミィパパー」と声を上げた。

だから、何かの間違いなんだってば。


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