第12話 今度こその夜
その日の夕食には何か緑色の塊のような野菜が出て、ヤコブはブロッコリーだよと言った。よく見ると小さいツブツブが集まっているような外見だ。
ケイトによると、これは花のつぼみを食べる野菜だということだけど、すごく贅沢な感じだ。この沢山のつぼみに全部花が咲いて全部実が生ったらすごいだろうなと思う。
B計画が成功すれば、みんなブロッコリーぐらい好きなだけ食べられるようになるのだろうか。それとも僕たちがそう思い込まされているだけだろうか。
夕食が済んで、今夜こそ、とウキウキした足取りでコテージに戻った僕は、情けないことに今トイレの住人になっています。
コテージに帰ってすぐお腹に違和感を覚えた僕はトイレに行って、そのまま出られなくなった。すぐに、あ、これは今朝ドクターが言ってたやつだと思った。
普段の食事といえば合成パンと強化スープ、たまに合成ソーセージ、ときどきコーラか合成インスタントコーヒー。決まりきったものしか食べていない僕らでもお腹の調子が悪くなることはある。原因は冷えたとかまあそんな感じで。でもそれはごくまれに、だから、これはやっぱり野菜の食べすぎが原因なのかなぁ。
もう大丈夫かと立ち上がろうとしたら、僕のお腹はまたきゅるるとイヤな音を立てた。
けど、調子悪くなるにしてもタイミングが悪すぎだろう。僕はいろんなものを、罪の無いヤコブまで呪いそうになった。
僕がトイレにこもって何分ぐらいたっただろう「ジェイミィ、大丈夫?」とアウラがそっとトイレのドアをノックした。
「ごめん、アウラ。トイレなら悪いけど食堂まで行ってきて」
ようやくトイレから出てきた僕にアウラは、ドクターのところへ行きましょう、と言うけど。いや、大丈夫だよ、多分アレだ、今朝ドクターが言ってたやつ。
そうなの?女の子たちは野菜を食べたほうがお腹の調子がいいって言ってたけど、とアウラが言うから。
女性は強いねぇ。僕はお腹もメンタルも激弱ですよ。
だとしたら、水分は摂ったほうがいいわね、とアウラは僕にホットミルクを作ってくれた。
お湯に合成ミルクパウダーと合成甘味料を溶かした、小さい子供が調子が悪いというときに母親が作ってくれるアレだ。
僕はそれがあんまり好きではなかったけれどおとなしく飲んだ。
シャワーでようく温めたほうがいいわよ、とアウラが言うので僕は素直にシャワーを浴びて、出てきた僕をアウラは毛布でぐるぐる巻きにした。
これも母親が小さい子供にしてくれるやつだ。アウラはいいお母さんになるんじゃないかな。
今日はジェイミィがベッドで寝て、というアウラにダメだよ、女の子をソファに寝かせるわけにはいかないよ、病人をソファに寝かせるわけにいかないでしょう、とどちらも譲らないので僕は必殺技を出した。
「トイレの近くにいたいんだ」
その一言でアウラは引き下がったけれど、今夜もまたアウラとあんなことやこんなことをする雰囲気ではなくなってしまった。
出すものがなくなったからか、そもそもたいしたことが無かったのか、その後は僕がトイレに駆け込むことも無くすっかり治ってしまったんだけど。
アウラは、明日になっても治らなかったらドクターのところへ行くからね、夜中につらくなったら起こしてね、と寝室に消えた。
僕は情けなく思いながらも、優しかったアウラを思い出して幸せな気持ちで眠った。
最後にアウラが僕に毛布をかけてくれたときに確認したけど、アウラはパジャマの下にブラジャーはつけていなかったようだ。
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