第11話 妄想
夕食が終わると、みんなコテージに引き上げる夜が来る。
この夜もTVで教養番組を見たりコーヒーを飲んだりして、そろそろシャワーを、と言いかけようとしたらアウラが「あっ」と声を上げた。
今夜洗濯をしようとして忘れてたわ。昼間は物干しスペースがいっぱいだったのよ。今から行ってくる、と言い出した。
僕は明日にすれば?と言えれば良かったんだけど、僕も洗濯物が溜まっていたので一緒に行くことにした。
2人で洗濯物が入ったバスケットを抱えて歩いているとヤコブとすれ違った。こんばんはといいながら僕は、きっと僕たちはうまくいっているペアに見えるんだろうなと思った。
洗濯機を覗き込んでいたアウラが、これ、大きいから2人分一緒に洗えるわね、と僕の洗濯物も一緒に洗濯機に放り込んだ。僕の下着も入っているんだけどな、と僕はなんだかドキドキして、慎重に洗剤の量を計っているアウラに、「夫婦みたいだね」と言おうとして「家族みたいだね」と言ってしまった。
アウラは、そうね、と笑って、それから2人でぐるぐる回る洗濯機を眺めた。
そのころ故郷の惑星の中流階級の家庭には洗濯機なんてなくて、洗濯女と呼ばれる人が朝洗濯物を集めに来る。彼女らに洗濯物を預けると、洗って干して畳んで夕方に届けてくれて手数料を払う。そんなシステムを使っていたから、僕たちは洗濯機が珍しかったんだ。
2人で洗濯物を干して、なんだかんだで遅くなった僕たちはその夜もおとなしく別々に眠った。
はぁー。
僕はこの惑星に来て何回目かわからなくなったため息をつく。
次の日の朝食の席でドクターが「ちょっと聞いて下さい」と声を上げた。
食事時の話題ではないんですが、と前置きして、毎年この時期にお腹の調子が悪くなる人がいます。原因は慣れない野菜の食べすぎです。
なんて幸せな悩みだろう、と僕は思う。ヤコブは毎回いろんな野菜料理を出してくれる。料理の手伝いをしている女の子たちは故郷の惑星に帰ったら、すぐに上流階級向けのレストランで働けるのではないかしらん。
調子が悪いのが続けば僕のところに来てください。とドクターが話を終えると、ああ、そういえば、みたいな顔をしているのも何人かいた。
昼食後アウラと昨夜の洗濯物を取り込みに行った。
もうすっかり乾いているわよ、とアウラは当然の流れのように僕の洗濯物にも手を伸ばす。
僕はあわてて自分の下着を洗濯ばさみから外した。
洗濯物をコテージに持っていって、アウラが洗濯も済んだし今夜はゆっくりできるわね、と言うから。
僕は肩甲骨から羽が生えたような気分で午後の作業をこなした。
あれは、今夜はそういうことをしましょう、という意味だよね、きっと。
じゃあ昨日まで僕を避けていたのはなぜ?あ、女の子の日だったとか?
ウンウン、だったら全部説明がつく。アウラだって何をしにここに来たのかわかっているはずだから、いつまでも僕を避けられるわけもないということも。
僕の妄想はふくらんで行く。今夜、シャワーを浴びたら、まずアウラを抱きしめてキスをしよう。それからアウラを抱き上げてベッドルームに、運べるかしら。もし持ち上げられなかったらかっこ悪いから、手を引くぐらいにしておこう。ベッドに横になったらもう1度キスをして、パジャマのボタンをはずすんだ。それから。。。あれ、女の子ってパジャマの下にブラジャーはしているものなのかな?それにブラジャーってどうやって外すんだろう?
僕は思いついて、畑の土に用があるフリをして洗濯物干し場を見に行った。運よく、誰のものかわからないけれどタオルやTシャツと並んでブラジャーが干してあった。僕は一瞬でそれが、後ろでホックで止めるようになっているのを見て取った。なるほど。まずは後ろのホックを外せばいいのか。
その日の午後の僕のにやけた顔を誰にも見られなくてよかったと思う。
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