第9話 再びの夜
バケツに1杯の湿地帯の土を採取してきた僕が、手を洗ったりコーラを飲んだりしていたらもう夕食の時間だ。
キッチンではヤコブに指示されながら、3人の女の子たちがくるくると働いていた。
料理を教えてもらえたら、故郷の惑星に帰ってからもきっと役に立つだろう。だから食事の準備の手伝いは人気だけど。そういう現実的な考え方が僕は苦手だと思う。
その日の夕食には、どうやったらこんなに細く切れるんだろうと思うほど細く切った生のキャベツがオイルと酢と塩で味付けされたものが出て、女の子たちに好評だった。
僕には兄が1人いるだけで、姉も妹もいなかったからか、女の子の生態というのがどうもよくわからない。
強化スープにも煮たキャベツが入っていて、僕はこっちのほうが美味しいと思った。
そして。
当たり前だけど夕食が終わってしまった。
今夜こそなんとかしなければという思いが湧いてくる。
あ、水を汲んで行かなきゃ、とアウラは今日も気が利くね。
コテージに帰って、ねえ、悪いけど先にシャワーを浴びていい?今日は敷地の外の湿地帯を見に行ったんだ、というとアウラは後でその話を聞かせて、と言う。
どうやら嫌われているわけではないらしい。では怖いのかな?
そういえば今日の夕食のトレイをヤコブから受け取るときに手が触れたのか、その時もビクッとしていたアウラを思い出した。
だったら時間をかければ大丈夫だろう。今夜は恋愛映画とか見るのもいいかもしれない。
アウラもシャワーを浴びて、それから僕は低湿地帯を見に行った話をした。アウラは私も見てみたいと言って、うん、今度一緒に行こう、所長も許可してくれると思うよ。僕はまた嬉しくなった。
それから僕は、そうだ、これから映画を見ない?と今思い付いたように言ってみる。アウラはいいわよ、とタブレット端末を渡してくれる。
よし、計画は順調だ。
実は僕はアウラがシャワーを浴びている間にこっそり映画の目星をつけていたんだ。
「愛」という文字がタイトルに入っているから、恋愛映画だと思ったそれは、まあ恋愛映画なのは確かだけれど、愛し合っているカップルがいて、女の子のほうが病気になってしまう。
古い古い映画なので、その時代にはまだ治療方法が無かった不治の病だ。そしてやがて女の子は死んでしまう。
これってハッピーエンドよね、というアウラに僕はびっくりした。だって女の子は死んじゃうんだよ?
でも。とアウラは言う。二人は愛し合っていて幸せな中で死ぬんでしょう、それはある意味幸せだと思うし、残されたほうも美しい思い出だけが残るわ。
えっと、それは斬新な考え方だね。ヘンな考え方かしら?生き続けていると状況や考え方が変わって不幸になる事もあるじゃない。
やばい、雰囲気がロマンチックな方向とは違うほうに行きそうだ。
と、今まで持っていたマグカップをテーブルに置こうとしたアウラの二の腕が僕にぶつかった。薄いパジャマの生地ごしに触れたそれは
「あれ、何か熱っぽくない?」
思わず僕はアウラの額に触れ、その手を自分の額に当てる。それどころではなかったのか、僕に気を許してくれたのか、アウラは身体を固くすることも無く、えー、そうかなぁ、と自分でも額に手を当てたりしている。
ドクターのところに行こうと言う僕に、こんなのときどきあるじゃない、大丈夫とアウラは譲らない。
病気がなくなったと言ったけど、なくなったのはさっきの映画にでてきたような死に至る病で、頭痛とか熱っぽいとか今日はなんかだるいとか、そんなことはもちろんある。
そしてたいていは次の日には治ってしまう。学校や仕事を休まなければならない病気はほとんどないというだけだ。
アウラは、ちょっと頬が赤いようにも見えるけど元気そうだし大丈夫かなと思ったので
「今日はもう寝て」と寝室に行かせた。調子が悪くなったらもし夜中でも僕を起こして、朝になっても治っていなかったらドクターを呼ぶからね、とアウラの布団を掛け直して僕はなんか母親みたいだと思った。
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