第5話 青い風の星の夜

そろそろいいかしら、というケイトについて食堂に戻ってきた僕たちは、テーブルの上を見て歓声をあげた。

テーブルの真ん中にある、あの黄金色の湯気を上げているもの。あれは、本物フライドチキンではないだろうか?

僕なんか、4年前の親父がまだ生きていた最後のクリスマスに食べたっきりだ。そんなフライドチキンが、ざっと見て、1人3切れはある!

そしてその隣にあるのは本物パン。これだって、兄の結婚式で食べたのが最初で最後だ。

スープはいつもの強化スープを温めたものだったけど、これには多分合成だけど黒胡椒がたっぷりかかっていて、さらに緑色のツヤツヤしたもの。

「ほうれん草だわ」と誰かが言った。ここの畑で収穫されたものだろう、ツヤツヤしているのは油で炒めてあるらしかった。

僕はほうれん草というと、黒っぽくなるまで煮込まれた、強化スープにたまに入っているびろびろしたものしか知らなかったからちょっと感動した。

「ここに来れてヨカッター」という声が聞こえたが、それはみんな同じ気持ちだったと思う。


「今夜は歓迎会ですから。こんなご馳走は今日だけですよ」という所長の声で食事が始まり、僕たちは一々感激しながらそれを食べた。

テーブルの上のご馳走があらかたなくなる頃、ヤコブがカウンターの前に立った。

「食事の後は男女のペアになってコテージに移動してもらいます。ペアが出来たら私のところに来てコテージの鍵とタオルなんかが入ったバスケットを受け取ってください」

その言葉に僕は本物パンの最後一切れを喉に詰まらせそうになってむせた。


なんてこった。ここまでお膳立てがされているのだから、相手はあらかじめ決められているものだと思い込んでいた。

ここにきて自分でなんとかしないといけないなんて。

僕の目は救いを求めようとケイトを探したけれど、一緒に食事をしていたはずのケイトとドクター、所長までももう食堂にはいなかった。


ヤコブの言葉を聞くなり、ほかの野郎共は一斉に女の子に話しかけ始めた。人気があるのはショートカットのグラマーな娘だった。名前は、えーっと何だっけ?彼女は僕もちょっといいなと思っていたんだけど。

出遅れたと思った僕は、たまたま独りで座っていた小柄な女の子に声をかけようと腰を浮かしたとたん、ほかの誰かが彼女に話しかけた。

僕は浮かした腰の持って行き場がなくて、とりあえず立ってトイレに行った。振り返ると、もうペアになってヤコブからバスケットを受け取っている2人もいる。

トイレで一人になると、自分で自分に言い聞かせた。落ち着くんだ、ジェイミィ。まず、名前を聞くんだ。それから、さっきのフライドチキンは美味しかったね、とかなんとか言えばいい。

だいたい今日初めて会ったばかりなんだから共通の話題なんてほとんどないんだ。深呼吸をして、食堂に戻るともう閑散としていて、ポツンと一人の少女が残っているだけだった。


暗い色の長い髪のおとなしそうな子だった。彼女の方に行くと、先に向こうから話しかけられた。

「ごめんね、私が残っちゃって」

僕はぶんぶんと首を振りながら、ようやく彼女の名前を聞いた。

「アウラ」

「いい名前だね」


別に法律で決まっているわけでもないし例外もあるけど、「A」で始まる名前は一般的に長子に付けられることが多い。

アウラは、両親に大切にされて、大切にされすぎてその結果引っ込み思案になってしまったとか、そんな雰囲気があった。


えっと、行こうか。

僕たちはヤコブから「12」と書かれた小さな札が付いた最後のコテージの鍵とバスケットを受け取った。

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