第4話 惑星の研究施設
僕はなんとなくケイトのグループに付いて行くことにして、後で気が付いたけどこのグループは女の子の数が多かった。
彼女たちは初対面にもかかわらず、2人、3人とかたまっておしゃべりをしている。僕には真似できないなと思いながら、黙ってケイトの説明を聞いた。
まずは食堂。これは一番大きな建物で、敷地の真ん中に建っている。
カウンターがあって、トレイに入った食事をここで受け取り各自でテーブルに運ぶスタイルだ。1日3回の食事はここで摂る。
そしてカウンターの端にはソーダバーがある。コーラとソーダ水と合成オレンジジュースが飲み放題だった。なんて待遇がいいんだろう、と僕は感激した。
僕はコーラが好きだったけど、僕たちの故郷の惑星ではコーラは嗜好品扱いでけっこう高価で、高校生のアルバイトでは4時間働いてようやく1杯買えるという値段だったから。
その隣にはウォーターサーバー。飲み水はこのウォーターサーバーから持っていくように、とケイトは言った。
カウンターの奥はキッチンで大きな鍋が見えた。
食堂の隅にはトイレと手を洗う洗面台があり、ベージュを基調とした明るい部屋だった。
食堂の横、東側には洗濯スペースがあって、洗濯機が1台と簡単な屋根がある物干しスペース。
屋根があるということは、雨が降るんですか?と誰かが聞いたら、霧のような細かい雨が夜中に降るという。
洗濯は各自で、洗濯機が1台しかないから譲り合って順番にやれということだった。
水が豊富にあるからこういうシステムにできるんだろうなあ、と洗濯ばさみや洗剤を珍しく眺めながら僕は考えていた。
食堂の南側には、コテージと呼ばれる小さな建物が12棟建っている。
建物と建物の間が広い贅沢な造りだ。
「ここがあなた方がペアになって生活するところです」というケイトの説明に僕は改めて何のためにここに来たのかを思い出し、女の子たちのおしゃべりもやんだ。
後で見れるから中はいいわね、とケイトはさっさと歩いていくので、僕たちはあわてて追いかけた。
食堂の北側には、所長のコテージとドクターのコテージ、ケイトのコテージ。大きさは南側にあるものと同じだ。
ヤコブは?と思ったら、ヤコブは食堂のキッチンのさらに奥に部屋があって、そこで寝泊りしているらしい。
ああ、ここでも「区別」なんだな、と僕は思う。
所長とドクターは上流階級、ケイトは上流階級か技術者階級でヤコブは中流階級なんだろう。それでも、故郷の惑星よりは差がゆるいように思う。
ドクターのコテージの近くにはラボと呼ばれる建物があって、診察室なんかもあるらしい。
そしてラボの半分ぐらいは僕たちも入れるスペースで、そこは中も見せてもらったけれど、顕微鏡とか秤とか、試験管とか、何かの薬品などが並び、紙の本も少し置いてあった。
ここは面白そうだ。あとでゆっくり見に来たいと思う。
ラボの隣は物置。制服の予備や、日用品や、農作業に使うシャベルや、飼育されている動物のえさなどが入っている。
コテージのトイレットペーパーやシャンプーがなくなったらヤコブに言って出してもらってください、と言うケイトはあわてて、「私でもいいですよ」と付け加えた。
女の子たちの間に安心した空気が広がり、僕の頭には疑問符が浮かんだ。
僕にケイトがそっと囁いた。生理用品とかもここだから。そうか、これからはそういうことも理解していかないと。
食堂の東側にはけっこう広い畑があった。200人入れる高校の教室3つ分ぐらいの広さで、一部にはキャベツが植わっていた。
僕にわかる野菜はキャベツぐらいだったけど、そのほかにも沢山の緑の葉だけの野菜。なかには黄色や紫色の花を咲かせているものもあり、女の子たちは「キレイー」と騒々しい。
ケイトは美味しそうでしょ、と言うけど、僕たちの中にはこんな、原型に近い形の野菜を食べたことがあるものは多分いない。
食堂の西側には屋根と囲いだけの豚舎があって、豚が3ペア、6匹飼われていた。その隣には鶏小屋で、鶏がたくさんいた。金網越しだし、鶏はちょこちょこと動き回るので数えられなかったけれど、多分20羽ぐらい。
豚は思っていたよりも大きくて、鶏は思っていたよりも小さい。どちらもTVでしか見たことが無かったし、よく考えれば僕が実際に見たことがある生き物なんて人間しかなかった。
豚舎と鶏小屋の向こうにはまばらに杭が打ってあり、それが一応の境界線のようだった。
コケコケとうるさい鶏小屋から離れながら、ケイトは明日からは朝食から夕食までの間8時間は決められた仕事をしてもらいます。とこれからの生活の話を始めた。
仕事というのはアレだな、ここに来る前に希望を聞かれ、食事の支度の手伝いとかは競争率が高そうだからとさけて、ヒマそうな地質調査にしたアレだ。
それから夜になったら敷地の外には出ないでくださいとか、朝食の時間には遅れないようにとか、水道の使用量制限はありませんとか、まあそんな話だ。
そして気が付くと、この惑星の白くて小さい恒星は西の方に移動し、夜の気配が漂い始めた。
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