第9話
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消防学校の卒業式の時が来た。厳しい訓練を受け、親しい友人も出来、消防士としての第一歩を踏み出すことになった。
「卒業証書、金城真斗、訓練課程の全日程終了においてここに卒業証書を授与する!」
金城は背筋を正し、一礼して卒業証書を受け取った。金城はレスキュー隊として東京消防署に配属されることになった。金城は体力があったので、二十四時間勤務になった。人の命を救うのがこんなにもやりがいのあることだとは思わなかったし、勤務地での人間関係は結束しており戦友だと思っていた。金城は毎朝、聖書を十五分読み、一言祈った。
「神様の御加護がありますように」
そんな矢先、東京消防署に大火災の緊急速報が入った。歌舞伎町だ!強い風にあおられ、瞬く間に火は燃え広がっているという。東京都内各消防局、警察署、使える救急車は全て出動した。金城は東京消防署の指令を受け、とある飲食店の火災現場に出動した。火は燃え広がっており、ドアも開かない。二人が取り残されている。金城は二人に大声で呼びかけた。
「怪我はないですか!今すぐ救出しますから頑張ってください!」
奥からはい。とか細い声が聞こえてくる。金城は消防署と連絡を取った。
「レスキューの金城ですけど、火がだいぶ燃え広がり、ドアも開きません。どうしますか」
「金城君。君の怪力でドアに体当たりして突き破ってくれたまえ。君なら出来る。幸運を祈る」
金城は防護服を着たまま体を力ませ、助走を五メートルほど取り、息を止めてドアに向かって集中した……。金城は弾丸のようにドアに突入した!
「バンッ!」という激しい衝撃音が響いた。金城は状況判断するまで十秒ほどかかった。ドアの向こうには、女性と子供がいた。二人とも怯えている様子だった。金城は状況を判断して、すぐに救急車の要請をした。二人を表に担ぎ出し、声をかけた。
「お二人とも怪我はないですか?ガスを吸っていますので、処置が必要です。見たところ外傷はないですが、病院で精密検査をしてもらいましょう」
女性が金城の顔を驚いたように眺めていた。女性は金城に恐る恐る話しかけた。
「・・・金城さん?」
金城はそうです、どうかしましたか?と答えた。
女性は嬉しそうに言った。
「私は中本の妻です」
金城は呆気に取られ驚いたが、任務の途中だ。詳しい話は後ほどしましょうと答えた。程なく救急車は到着し、二人は病院へと向かった。消防と病院と警察の連携で、歌舞伎町の火災は収束へと向かった。完全に収束するには五時間かかったが、一人の死傷者も出さなかったのは正に奇跡だった。
火事から一週間した時だった。中本の元妻から金城に面会したいとの電話が入った。勤務場所に外出届けを出し、金城は待ち合わせ場所の新宿の喫茶店に向かった。
金城は、子供連れの中本の元妻と話をした。元妻の名前は由里子という。由里子は金城に話しかけた。
「金城さん。中本が生前は大変お世話になりました。中本がね、いつも言っていたんです。金城兄貴、金城兄貴って。とても嬉しそうに金城さんのことを話していたんですよ?金城さんのお顔は写真をいつも見せてくれていたのですぐに分かりました」
金城は懐かしげにヤクザ時代だった時のことを思い出した。楽しい思い出がたくさん詰まったあの時を・・・中本も山田も親分も、楽しかったなぁとしみじみ思い出した。金城は由里子に話し始めた。
「あの時は楽しかったですよ。痛快でした!中本とも沢山の楽しい思い出ができました。……でも謝らなきゃいけない。私のせいで中本を死なせてしまった。大変申し訳ありませんでした」
百合子はすぐに答えた。
「謝らなくていいんです。中本は短い間で一生分楽しい思いができました。金城さんのおかげです。わたし、いろいろ考えたんです。人間の一生って、いつかは終わるものでしょ?みんなその人はそうでしか生きられないと思うんです。中本もそうでしか生きられなかった。でもそれで十分なんです」
金城はそうですねと言って、由里子に促した。
「もう一度ヤクザアパートに行ってみませんか?」
由里子はしみじみと、はいと答えた。
三人はヤクザアパートに向かった。階段を駆け上がり、ドアを開けたが誰もいなかった。ただ、ヤクザ時代だった時の佇まいはそのままだった。金城は中本と山田と三人で暮らしていたあの時が走馬灯のようによみがえってきた。金城はいつまでもそこに居たかったが五分もしないうちに帰ろうと思った。大切な何かが失われるような気がしたからだ。そこで由里子に話しかけた。
「思い出深い場所なんですけどね、ま、過去の遺産ということでここら辺で帰りませんか?」
すぐに由里子は了解して、新宿駅で別れることにした。新宿駅で最後に金城は由里子にこう言った。
「お互いの人生を大切に。またどこかでとは言いませんが、いつかまたお会いしましょう」
由里子は有難うございますと言って、深々と頭を下げた。由里子は改札を抜けて人混みへと紛れていった。
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