第7話

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程なくしてその日曜日が来た。朝10時半から礼拝が始まる。谷口はスーツ姿で9時には教会に来ていた。金城のもとに訪れ、話しかけた。

「金城さんお早うございます。今日は礼拝があるけど、もし良かったら出てみない?僕が横についとってやるから、分からんことは教えてやるから」

金城は緊張した面持ちで谷口に答えた。

「ハイ!出席させてもらいます!」

谷口は笑顔で話した。

「そんな緊張せんでええ。礼拝は真面目に送るけど、そんな緊張せんでええ。まぁなんちゅうか初めてやし、そんなもんかな?」

谷口は面白そうに金城の肩を叩いた。しばらくして金城と谷口は礼拝堂へと向かった、そこではすでにパイプオルガンによる荘厳な前奏が流れていた。金城には、そのパイプオルガンの音が、天にも届くような感銘を持って聖らしさと厳格さを感じられた。それと共に自分の人生は上手く行くというお告げをもらったような気がした。金城と谷口は着席し、式に則って賛美歌を歌ったりお祈りをしたり、西村牧師の説教を聞いた。礼拝は一時間ちょっとで終わった。百人はいるかと思われる信者たちはめいめいに仲が良さそうに話し合っていた。金城は谷口からどうだった?と聞かれた。

「よく分からない所もありましたけど、浄化されたように感じました」

谷口は答えた。

「そこまで感じ取れたら百点!もうなんも言うことはないわな。僕はこれから長老会があるから。金城さんのことを決めないかん。金城さん任せとけー!。金城さんが職を見つけるまでここにいてもいいことにするからな!」

谷口は金城と握手した。谷口は長老会が終わったら呼びに行くからと言って、金城に宿泊施設に戻るように言った。

金城は宿泊施設に戻って待っていた。もしここを追い出されたら俺は行くところがない。神様は俺をまた見捨てるんだろうかと思った。そういえば今日の西村牧師の説教で、全てを神様に委ねましょうと言っていたことを思い出した。金城は祈った。

「神様、この私を全てあなたの御手に委ねます」

天窓から見た空は青く綺麗だった。

小2時間は経ったろうか、谷口が来た。

「金城さん、朗報だ!ここに居ていいことが決まったから、長老会に挨拶して欲しい」

金城は緊張の糸が切れたのか、ため息とともに脱力した。

「ハイ、分かりました、挨拶します。それと、神様って本当にいるんですね」

谷口は面白そうに、そうやそうやと言って、二人で愉快そうに笑った。

金城と谷口は長老と西村牧師の待っている会議室へと向かった。扉を開け、中に入ると、みんなニコニコ顔だった。金城が谷口に促されて挨拶をした。

「この度はお世話になりますがどうぞよろしくお願い致します!」

すると長老の一人が金城に話しかけた。

「あなた、極道をやっていたみたいですけど、とても良い素質を持ってらっしゃる。私は渡辺と言いますが、あなたのお世話をします。困ったこと、信仰で分からないことがあったら、何なりと仰ってください。それと課題を与えますが、毎朝十五分聖書を読んで、主の祈りを一度唱えてください、雨の日も風の日もです。それとできるだけ毎週礼拝に出席してくださいね」

続いて西村牧師が続いた。

「金城さんは、拘置所の中でいろいろ体験され、自分なりに信仰とは人間とはということを体験されたと思います。私はあれで良いと思います。これからもいろんな気づきや体験をされると思います。大切な人生です、ぜひ自分のためだけではなく、人のためになにかを出来ると良いですね。それと、大事なことですが洗礼のことを話し合いました。金城さんさえよければ四ヶ月後のクリスマスの時はいかがかと思いました。もう一つ伝えておくことは、自分がなりたい職業がありましたら教えてください。私から言うことはそれくらいです」

金城ははっきりと答えた。

「洗礼は十二月のクリスマスで良いです。それと私は消防士になりたいと思っています」

西村牧師が答えた。

「それでは、十二月の受洗で進めて行きましょう。洗礼志願書に署名してください。入門講座を開きます。それと、消防士になるにあたっては、奨学金制度を使うと良いでしょう。十二月入校でいかがでしょうか?九ヶ月ほどの厳しい訓練があります。覚悟しておいてください。私からはそんなところでしょうか」

谷口が締めるようにして言った。

「金城さんこれからだ!これからの方向も決まったし、教会は安らぎの場やけど、消防士になるんやったら死に物狂いでやらんといかんぞ!それまでは教会のお手伝いをしてもらおうかな?金城さんにとって居心地の良い場所になってもらったらいい。自分の家だと思ってな!」

金城は最後に挨拶をした。

「この度はいろいろ取り計らってもらい有難うございます。今後ともよろしくお願い致します」

長老会から拍手が起きた。渡辺から早速仕事を任された。教会内の清掃の仕事である。今日から毎日五時間清掃をしてくれとのことであった。

「金城さんこん詰めないように、休み休みで良いですから、お願いします」

金城は毎日、朝起床し顔を洗ったら、聖書を十五分読み、祈りを捧げ、朝食をすませ、清掃に取り掛かった。金城は体力には絶対の自信があった。八時から午後一時までの五時間みっちり清掃作業をして、

それでも時間が余るくらいだった。

二時からは西村牧師の入門講座だった。金城は聖書のことは大抵理解していたが、疑問に思うことが山ほどあった。入門講座というよりは質問形式だった。

「先生、イエスはこんな私みたいな人殺しでも許してくださる。どこまで許容量があるんですか?」

「無限です。法律において罪とされることはあるでしょう。しかし、イエスはどんな人でも罪と定めません。あの十字架上で自らが生贄となって許してくれたからです」

「どうして神様はイエスをお遣わしになったのですか?」

「神様はイスラエルの民が荒野でさまよっているのをみて、あまりに可哀想なので、憐れんで、神の独り子であるイエスをお遣わしになったのです」

「じゃあ私は何をやっていけば良いのですか?」

「神様からもらった能力を十分に生かし天国に富を積みましょう」

金城の質問は絶えなかった。乾いたスポンジが水を吸収していくように、どんどんと吸収していった。

西村牧師は金城に話した。

「金城さんは飲み込みが早いですし、言葉が血肉化するのも早い。話はズレますが、消防士の学校が始まる十二月までに一通りの勉強を終えて、学校の勉強に専念しましょう」

今は十月だ。教会内の清掃をしながら、キリスト教の勉強をしている。何不自由ない生活。これから消防士になるという困難が来るのは分かっているけれど、今はこれで良い。慌てることはない。努力は怠らず、神様に任せれば良いんだ。

西村牧師は一言お祈りしましょうと言って、二人で祈った。

「神様、金城さんの道のりが整えられますように」

アーメン

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