第6話

金城はまっしぐらに、地図のとうりに銀座アイオナ教会を目指した。新宿駅の公衆電話で銀座教会に電話をした。

「ハイ、こちら日本基督教団銀座アイオナ教会です」

どうやら、受付の人か教会の人が出たようだ。金城は少したじろいだが勇気を持って話しかけた。

「西村牧師先生にお世話になっている金城と申します。西村先生はいらっしゃいますか?」

「ああ金城さんですね、西村先生から聞いております、今は先生は出かけておりまして夕方に帰ってきます。もうそろそろお昼になりますので、どうぞよろしければ教会で食事を出しますので、皆さんと一緒に召し上がってはいかがですか?」

金城はこんなに人が良すぎるんだと思い、少し疑ったが、了解することにした。

「今新宿駅にいまして、これから銀座に向かいます。食事も有り難くいただきます。よろしくお願い致します!」

「そんなに硬くならないで、みんなで美味しいお昼を食べましょうよ」

金城は狐につままれた気分でいた。人殺しの自分をここまで歓迎してくれるなんて、なんていい人たちなんだと思った。電話を切り、銀座教会へと向かうことにした。

銀座に向かい、銀座を降りたところから、歩いてすぐのところにあった!看板を見ると、日本基督教団銀座アイオナ教会と書いてある。結構高いビルだ。金城は恐る恐る中に入っていった。階段を上っていくとホールのようなところに出た。そこには二十人くらいだろうか。食事の用意をしたり、テーブルについて雑談している人がいた。一人自分のところに来た人がいた。その信者と思われる人は満面の笑みで尋ねてきた。

「お食事用意してありますけどどちら様でしょうか?」

「西村先生にお世話になっています金城と申します!」

信者と思われる人は少し驚いた様子で答えた。

「ああ、金城さんですか。先生から伺っています。どうぞこちらへ、お腹空いてるでしょ?今日はね、カレーとサラダとデザートです。皆さんとお話ししながら美味しくいただきましょ?」

金城は、信者らしき人から、こちらにおいでくださいといって導かれるままに席に着いた。

ホールと思われる場所は冷房は効いているもののかなり暑かった。すると隣の人から突然声を掛けられた。

「あなた、ステキな刺青してるのねその道の方?」

金城は訳が分からず、有難うございますと言って、その後は何も言えなかった。すぐに、カレーとサラダとデザートが届いた。

「あなた、たくさん食べそうだから、大盛りにしておきましたよ」

金城は周りの人たちが笑顔で接しているのを見て、うつむいたまま食べていた。暑い中で熱いカレーを食べる。シャバに出て、最初の食事が教会でのカレーになろうとは……金城は大天使長ガブリエルと出会った時のことを思い出した。それがカレーと結びついた。ガブリエルは罪を許すとのイエスキリストの告知で来た。それが、この美味しいカレーとつながった。あれがなかったら教会には来てないだろうなと思った。金城にはカレーがその証だと思った。カレーは大量にあり、しかも美味い!汗を腕で拭きながらカレーにがっついた!サラダもモリモリと食べ、最後のデザートは味わいながら堪能した。腹一杯だ。何か神様の祝福を受けているような感じがした。緊張感はほとんど解けて、後は西村先生を待つだけになった。近くの信者らしき人に尋ねた。

「西村先生はいつ頃戻られるんですか?」

すると質問された信者らしき人は、ちょっと待ってくださいと言って奥に行ってしばらくして戻ってきた。

「四時ごろ戻ってくるそうです。その前に長老という教会の役職についている谷口さんという男性からお話がありますので、お茶と漬物を用意します。少しお待ちください」

金城はどんな人だろう。偉い人なのかなと少し心配していたが、そんなことはすぐに打ち解けた。谷口という信者は、ニコニコ笑顔でこっちを見ながら寄ってきた。隣に座ると、突然肩をバンバン叩き、そのあと、どうもどうもと頭を下げた。するとすぐに金城に話しかけた。

「西村先生から話は聞いております。極道をやっておったようで。そんなんね、難しく考えんでいいんですよ。みんな同じやからの!これからも金城さんも兄弟や!」

そう言って金城と谷口は熱い握手をした。続いて谷口は金城に話しかけた。

「今、握手したやろう?金城さんいいもん持ってるぞ。伝わった!金城さん熱いね。これからが楽しみだ!」

二人は椅子に座り、漬物とお茶を飲みながら話をした。金城はすぐに信用の置ける人だなと感じ、谷口に率直に質問した。

「なんで皆さんこんないい人ばかりなんですか?」

すると返す刀で谷口は答えた。

「そんなもん、金城さんだっていい人やぞ。なんも気にしなくていいから。漬物美味しいやろ?」「そりゃ生きてれば誰だって色々ある。でもここはな、みんなが罪人で、みんなが辛い思いをして、みんなが許しあっている。みんな隠しているだけや。そのうち分かる。その刺青だって勲章やぞ。なーんも気にせんでいい」

金城はなんて大らかな人だと思った。

谷口は金城に話しかけた。

「おえーなんか趣味は持っとるか?」

すると金城は谷口に心を許したのかこう答えた。

「麻薬です」

谷口はお茶を吹き出し笑いが止まらなかった。ゲホゲホと咳き込んだあと金城に話した。

「さすがに教会で趣味が麻薬って人はいないわな。でも今はやってないんでしょ?」 金城は真顔でやってませんと答えた。

谷口は真剣な眼差しで金城に話しかけた。

「これからどうするかは、西村先生と話せばいいが、俺はな、職が見つかるまで教会に寝泊まりすればいいと思うけどな。なーんも心配せんでええ。洗礼なんてまだ考えなくていい。俺たち長老は8人おるけどな。先生も含めて9人でいろいろ決める。でもな、絶対に悪いようにはせん。俺たちに任せとけ!」

金城は、ここまで良くしてくれるなんて半信半疑だったが、どうせ後先ない身分だし、この教会にかけてみようと思った。

そうしているうちに壁にかけてある時計は四時を指していた。すると西村先生が見えた。こっちに向かって手を上げ、ニコッと笑った。谷口は椅子を三つ並べ、三人は座って話し始めた。

「金城さんここの教会はすぐに分かりましたか?」

金城は拘置所にいた時に面会してくれた時の西村牧師となんら変わりない姿にホッとした。

「すぐに分かりました。銀座の駅前だったので、駅前地図を見てすぐに分かりました」

谷口はすぐに本題に入った。

「先生、金城さんがな、とりあえず職を見つけ、社会で生きていくまでは、ここで囲ってやりましょうや」

西村はすぐさま答えて

「そうですね、次の日曜礼拝の後に長老会を開きますから、それまでとりあえずは寝泊まりしてもらいましょうか」

谷口もそれに答えた。

「みんなにも知っといてもらわないかんことだから、その翌週の礼拝後に金城さんが独り立ち出来るまで、この教会にいてもらうと発表するという形で持っていきたいですね」

西村はそれを了解した。金城に穏やかに話しかけた。

「金城さん、ご安心ください。ひとまずは、明後日の礼拝後の長老会の時に生活が軌道にのるまで、ここに宿泊するところがあるのでここに居てもらおうと、長老会にかけて了承を得ます。今は泊まる場所は空いてますのでなんら問題はないと思われます。日曜日までは宿泊する場所があるのでそこに泊まってもらいます。そんなところで、お二人よろしいでしょうか?」

二人は頷き、はいと言って答えた。

締めくくりに、西村が静かにお祈りをした。

「神さま、金城さんの今後の道が整えられますように」

アーメン

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