第2話
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昼の三時である。若頭の金城は若中の山田と中本が奥の部屋で寝ている時に考えていた。山田と中本にも家族がいる。子供だって小学校に通っている。いつまでこんなことが続くのかと考えていた。いっそ俺たちは破滅してしまったほうがいいのではないだろうかとも考えた。金城はソファーに座り、頭を抱えていた。もう、堅気になったほうがいい。俺たち三人はこんなことを五年も続けている。いつ潮時が来てもおかしくない。サツに捕まって務所に放り込まれるかもしれない。こんなことをやっているのはただの馬鹿なんじゃないかと思う。考えれば考えるほど自分たちのやっていることが愚かに思えた。いっそ三人で心中をした方がいいと考えた。考えれば考えるほど混乱していった……金城はチャカを用意して、二人が寝ている奥の部屋へと向かった。金城の頭は完全に混乱していた。中本が寝ているベットに行き、チャカの引き金を引いて、頭に銃口を向けた……金城は目を見張り、向けられた銃口の先をじっと見ていた。三十秒もしただろうか、金城は冷や汗をかき、息が上がった、そしてそのまま銃口を元に戻した。山田の寝顔を見たがぐっすりと寝ている。金城はその場を立ち去り、ソファーのある部屋へと向かった。息を切らして水をコップ一杯一気に飲み干してソファーにもたれかかった。自分たちのやっていることが何が何だか分からなかった。俺たちは組長である神部親分に従っているそれだけだろ?金城は自分に問い正した。久しぶりに組長に電話することにした。事務所の電話から組長にかけてみた。
「若頭の金城だけど、神部組長居ますか。ああそうですか五分待ちます」
事務所の若中が取り次いだようだ。とりあえず五分待とう。金城は掛け時計の秒針を見ながら時間を待った。するとしばらくして神部が電話に出た。
「神部だけどどうした?」
金城は臆することもなく答えた。
「若中と三人で今のシノギを五年やっているんですが、二人とも家族持ちで、不憫なんですよ」
神部はすぐに答えた。
「やるのかやらないのか」
金城はたじろいだが、すぐに気を取り直して答えた。
「やります。やり続けます」
「それならよろしい、そうしてくれ」
そのまま電話は切れた。金城は組長の言っていることがすぐに理解できたし、統率が取れていなかったと実感した。そんな時、中本と山田が起きてきた。中本と山田が声をそろえて金城に言った。
「兄貴、腹減りましたよ。寿司でも取りませんか」
金城はこの二人がとても大切に感じた。特上の寿司を取ることにした。待っている間、ドン・ペリニヨンのシャンパンを三人で開けることにした。金城は机の椅子にもたれかけ、中本と山田はソファーに座った。三人でシャンパングラスで乾杯した。ドン・ペリニヨンは格別だったが、金城は二人の家族のことがまだ少し気になっていた。しかし気を取り直して、二人に話しかけた。
「俺はな、お前たち二人を信頼しているし、大事に思っている。三人でこれからもやっていけたらと思っている」
二人は笑顔で、中本はこう答えた。
「兄貴、今更なに言ってるんですか。俺たちずっと兄貴について行きますよ。兄貴は分かりきったことを言って……当たり前じゃないですか。可笑しいな兄貴は」
山田も続けて金城に話した。
「兄貴は面白いこと言いますね。俺たちずっと兄貴と一緒ですよ」
金城はそうかと笑顔で返したが、内心は複雑だった。そんなことをしているうちに特上の寿司が届いた。三人は嬉しそうに美味そうだと言いながら、寿司を頬張った。三人で食べる特上の寿司はまた格別美味かった。三人はこんな最高の時間がずっと続くと願っていた。
ふと見ると時計は五時を指していた。中本が金城に今日のシノギはどうするかと話して来た。すると金城は答えた。
「そうだな。いつもどうり、山田は渋谷のセンター街。中本は六本木。慣れてるところで頼むわ」
三人は寿司を食べ終わると、シノギの準備をした。中本と山田は行ってきやすと言って、マンションを後にした。
金城はいつもどうり上手くいくと思っていた。しかしマンションの外では警視庁捜査一課が張っていた。警視庁捜査一課は、金城が中学の頃からマークしていたのだ。中本と山田が出て行った後に、本部と連絡を取り合い、ガサ入れの準備をしていた。金城としては心に隙があったとはいえ、まさかこんな事態になっているとは想像もつかなかった。
警視庁捜査一課は本部からの支持を受け、一気にガサ入れに入った。私服警官は、チャイムを押して、金城が出てくるのを待った。金城が扉を開けると機動隊が私服警官の脇を固め、金城に通告した。
「これ分かるね。裁判所から強制捜査の許可が降りているから捜査の拒否はできない。拒否しても私たちは捜査ができます。いわゆるガサ状だ」
金城は不覚を取ったと思った。不意を突かれた気分だった。それからのち、尿検査で陽性反応が出て、マンションからは大量のコカインが押収された。私服警官はその場で罪状を読み上げた。
「五時ニ十六分!麻薬取締法、覚醒剤取締法違反で金城真斗を逮捕!」
機動隊に背後から羽交い締めにされ、後ろに手を組まされ、手錠をはめられた。
金城はこういうシノギをやっていれば、何回も捕まると聞かされてはいたが、まさか自分がと思った。金城としてはまだ、山田と中本のことが頭にあり、組長に対しても申し訳ない気持ちでいっぱいだった。生まれて初めて味わった敗北感だった。手錠をかけられたままパトカーに乗せられ新宿警察署に連行された。警察署では警察が三人脇を固め、刑事が待ち構えていた。金城に机の前の椅子に座るように伝え、刑事が話し始めた。
「お前は知らないかもしれないが、中学の時からマークしていたんだよ。どうせヤクザの道に入ると分かっていた。山本会に入ってからもずっとマークしていた。でもな、今までかかったっていうのは、タイミングだったんだよ。お前に大いに反省してもらうためにだ。これから留置所に行く。でもな、一回で終わるとは俺は思っていない。破滅に向かうかどうかはお前次第だ。今までは自分の力で思うどうりやってきたと思う。これからどうなるか見ものだ。これが人生ってやつだ」
そう言われて金城は返す言葉もなかった。しっかりと写真撮影をされ、指紋も採取された。四十八時間以内に検察側に送検して、検察側から起訴されると言われた。
結局、金城は組の誰にも連絡せずに、黙し続けたまま検察側に引き渡され、起訴されることになった。
裁判所に置いて、罪状が渡された。実刑、三年、執行猶予二年。
金城は手錠をはめられたまま留置所に護送された。
検察官から取り調べを受けたが、金城は包み隠さず全てを話した。しかし検察官はこう言った。
「あなたが暴力団から足を洗えるとは到底思えませんね。今回が初犯なのですぐに釈放されるでしょうけど、再犯の可能性は極めて高いと思います。どんなに反省しても同じことです。いずれ身を滅ぼすのも目に見えています。今回は釈放しますが、再犯の場合は留置所から拘置所に移されて、そうですね、執行猶予なしの実刑が渡されるでしょう。いまのうちに覚悟しておいても遅くは無いと思いますよ」
検察官にそう言われ、留置所に二日間拘留された後、金城は釈放された。
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