第7話

真っ暗な、深い海の底。少年は小さな魚だった。

魚はいつも同じ場所を泳いでいた。なぜなら、そこが彼のために与えられた世界、すなわち、彼のテリトリーであったから。

が、彼はふと、上に向かって泳ぎたくなった。何故、突然そんな気持ちになったのかは、わからなかったが。

魚は、しばらく迷うようにあたりをうろついたが、やがて、上へ向かって泳ぎはじめた。

何か、大きなものが近づいてくる。大きな魚! 少年は逃げた。食べられてしまう!

それは、不思議な逆転の感覚だった。確かに食べられたはずなのに、今、彼はその魚になって泳いでいる。しかも、また上へ向かって・・・。

再び、何か大きなものが近づいてくる・・・。

そして少年は、何度も何度も大きな魚に襲われ、食われた。そしてそのたびに、また新しい魚に再生して、泳ぎ続けているのだった。上へ上へと・・・。


やがて、少年は水面近くにまでたどり着いていた。少年は水面に向けて泳ぎ出す。

しかし、ちょうどそこへ漁師たちの投げた網が放り込まれた。網は少年を包み込み、その体にからみついた。少年は悲鳴を上げ、必死でもがき、そこから逃れようとした。

だが、ダメだった。少年は力つきた。ゆっくりと、水面が近づいてくる・・・。

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