第5話 友加里の思い出3

 目が覚めると

 本を読むあなたがいる


 コーヒーの香りが部屋中に

 漂っている

 あなたのその横顔やその仕草

 どれも胸をぎゅっとさせて

 頬や体温が温かくなる

 永遠にあなたの側にいたい…


 本を読んでいたあなたが

 顔をあげてこちらを向く


「おはよう、友加里さん…」


 笑顔が素敵だ

 本当に

 素敵…

 わたしだけのあなたでいて欲しい…


 体を起こして

 あなたの側にいこうとした瞬間


 わたしの世界が歪み初めて

 気づいたら真っ暗な部屋にいた


「あぁ…また…夢ね…」


 同じ夢を最近何度も見る

 時々それが夢じゃなくて

 本当のことじゃないかと

 思うこともあるけど

 目覚めればいつもこの部屋にいる


 動きたくても

 動かない体


 わたしのしたことは

 許されないことだと思ってる

 娘も手放さないといけなくなって

 あの時やっと自分のしたこと(罪)に

 気付いたのだから


 でも、あの時は、全てを失う怖さや不安は

 どこかにあったのだけど、見て見ないふりを

 していた


 上手くやればいいと思っていた

 ずるいわたしがいた


 失ってからもう取り返せないものも

 あるのだと気付いた時には遅い


 娘のことを想うと本当に悪いことをした

 泣きながら

「また会えるよね、ママ」と言って

 元夫の手に引かれ

 何度も振り返るあの子に

 会えるよとも言えなかった


「ダメな母親よね…」

 そうつぶやくと


 暗闇から

「そんなことないですよ…」


 声のする方を一生懸命見ようとするけど

 ぼやけて見えない


 近づいてくる黒い影に

 不安になって


「誰?」

 大きい声で呼ぶと

 黒い影が

「未来です」


 そう言いながら近づく黒い影から

 ハッキリと見えた時

 未来さんは泣いていた


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