第44話 狙撃
「山崎、そこから狙撃手が見えるか」岸川は恐怖で大声で山崎を呼び出していた。岸川は美佐子が倒れたと同時に墓石の後ろに飛び込んだ。同時に跳弾が墓石に命中する音がした。
「岸川さん、どうしたんですか」山崎ののんびりした声が返ってきた。
「狙撃されているんだ。音が聞こえないのか」「ベンツの男たちに動きはないですよ」岸川は耳を澄ませた。狙撃手はサイレンサーを使っている。銃弾が飛んできた方向にはビルがあるが、かなりの距離があった。どちらにしても狙撃手は相当の腕前に違いなかった。この場所は墓石しか遮蔽物が無かった。墓石は点在していて、移動すれば間違いなく標的になる狙撃にはもってこいの場所だった。
狙撃手は岸川が姿を現すまで粘り強く待つつもりだろう。岸川は墓石の周りを見た。目についたのは墓前にお供えされた後に捨てられた枯れた花束だった。山崎は岸川から指示された合図を待っていた。じりじりするような時間が流れた。
フェンスの向こうに白い煙が立ち上ったを確認すると携帯電話を取り出すと山崎は消防署に火事が発生したことを告げた。岸川は辺りが白煙に包まれると墓石から墓石へ移動を始めた。サイレンの音が確実に近づいてくるのが分かった。
「岸川さん、ベンツの男たちは移動しました。すぐに退避してください」山崎の声をかき消すように管理事務所から退避を呼びかける放送が流れた。あちらこちらから人が集まり、出口に向かう一筋の流れになった。岸川はその流れに紛れ込んだ。「まったく運のいい野郎だぜ」この状況を見ていた狙撃手は諦めてその場を去るしかなかった。
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