第43話 告白
そこは再度山山頂に近く、紅葉の名所としても有名は場所だった。畠山美佐子は広大な外国人墓地の一角に佇んでいた。この墓地は遺族以外は立ち入り禁止になっているため、美佐子を警備する男たちはのベンツの車内で待機していた。
こんなチャンスを逃すことは出来なかった。ベンツの男たちは山崎に見張らせて、岸川は管理人に警察手帳を見せると墓地の中に入って行った。管理人は警察官だと分かると何も言わずに通してくれた。
気づかれないように距離をあけて跡を追った。畠山美佐子は広大な墓地の奥の方にずんずんと進んで行った。いったい誰の墓参りなのだろうと思った。見張りをしている山崎を呼び出した。
「ベンツの男たちに動きはないか」「運転席の男はうたた寝してます。こちらにはまったく気付いていません」岸川は一瞬、美佐子を見失ったと思って焦った。
岸川は素早く辺りを見回した。苔むした古い墓石の前に佇む美佐子の姿を見つけるとゆっくりと近づいて行った。背後に気配を感じた美佐子は岸川の顔を見て青ざめた。携帯電話を取り出そうとする前に岸川は言い放った。
「警備の男に連絡するな」岸川の右手にはグロック17拳銃が握られていた。美佐子の動揺は一瞬だった。冷静さを取り戻すと笑いながら言った。
「どこまでも追いかけてくる男ね」「根っからの刑事なんでね。事件を解決するまでは諦めない」「いいでしょう。あなたの質問に答えてあげるわ」
「それじゃあ。ここは外国人墓地だが、いったい誰の墓参りなんだ」
「その質問で分かったことがある。あなたは畠山家の秘密に一歩も近づいていなかったことが」岸川は美佐子の言うとおり、事件の核心をつかんでいなかった。
「すべての悲劇はここから始まった」美佐子は墓石を指さした。刻まれた文字は長い年月で摩滅していたが、ポール・マクマハンと読み取れた。
「戦後まもなくの頃、畠山本家で起きた事件のことは知っているわよね」
「一家が惨殺された事件のことなら記録は読んだ。犯人は見つからず未解決事件になった。その事件に関係があるのか」
「神戸にM&Nという大正時代に設立された老舗の貿易会社があった。ポールはその会社の社長の息子だった。畠山本家は戦前は大変な資産家だったから、仕事上の付き合いがあった。ポールは畠山家の人妻と恋に落ちてしまった。戦争が始まる前にM&Nは香港に移ることになり、その時に初めて恋人が妊娠していることを知ったポールは駆け落ちをしようとした」
「不倫で白人の子供を身篭るなんて、当時は絶対に許されなかった。それはそうでしょ。ずっと鬼畜米英と教え込まれていたのよ。畠山本家に外国人の血が混じることを阻止しようとする人間がいたのよ」
「犯人は畠山家の人間なのか」岸川はその時、高梨元刑事の話を思い出した。
「畠山家の本家には座敷牢があったというが本当なのか。立山雄一郎は本家の隠し子というのも本当なのか」
「座敷牢があったのは本当のことよ。隠し子のことも」
「畠山家にはどんな秘密があるんだ。これだけ多くの人間が死んでいるんだ。そのわけを教えてくれ」「私は畠山家の秘密を守らなくてはならない。なぜなら」
岸川は美佐子の次の言葉を待ったが、その口から漏れたのはうめき声だった。
美佐子の額の中央に開いた穴から鮮血が滴った。そして、まるで巨大な力で薙ぎ倒されたように地面に崩れ落ちた。
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