第40話 待ち伏せ

 3日目の夜を二人は倉庫を見渡せるビルの屋上で迎えていた。1日目と2日目は何の動きも無かった。岸川を拉致して、殺害しようとした畠山美佐子とその仲間は倉庫で死体が発見されたというニュースが流れないことを不審に思って、現場に戻ってくると違いない、その確信がぐらつき始めていた。

「岸川さん、本当に戻ってくると思いますか」山崎は疑念を抱き始めていた。

「戻ってくるさ」

「山崎、聞こえているか」深夜午前2時を過ぎた頃、居眠りを始めていた山崎はイヤフォンの声に驚いて飛び起きた。隣にいたはずの岸川の姿は屋上には無かった。岸川と山崎は連絡をとるために小型無線機を身につけていた。

「どこにいるんですか」「倉庫の中だ。入ろうとしている奴がいる」山崎は双眼鏡を覗いた。黒ずくめの背広に身を包んだ男が倉庫のドアを開けようとしていた。倉庫に横付けされた車のマフラーからは排気ガスが見えた。運転席の男は見張りに違いなかった。

「岸川さんを殺そうとした連中です」「何人いる」「二人です。一人は車で見張りをしています」「分かった。5分後に倉庫の裏口に車で来てくれ。もし5分経っても連絡が無かったらその場を離れるんだ。いいな」岸川は暗闇の中で音のする方を凝視していた。男は手にしていたライトを点けたので、壁に反射した光でシルエットが浮かび上がった。男は岸川がぶら下がっているはずの場所に近づくと舌打ちをした。岸川にはその舌打ちがなぜ死体が無いんだという呟きに思えた。

 岸川は男の背後から近づき裸締めにすると意識を失わせた。小学生の時から習っていた柔道の技が役に立った。岸川は男を背負うと裏口に急いだ。

 その頃、山崎はビルの階段を駆け降りると2ブロック離れた所に駐車した車に向かって走っていた。息が切れた。急がないと戻ってこないことを怪しんだ運転席の男が動き出す。

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