第20話 不審な郵便物
懸念していたとおり、テーピングした足首は歩くたびにズキズキと痛んだ。
「顔色が悪いぞ。大丈夫か」木下刑事の問いかけに岸川は思わず嘘をついた。
「少し飲み過ぎた」岸川刑事は昨日の事件のことは誰にも明かしていなかった。命が狙われていることがはっきりした以上、一瞬の油断も許されなかった。
「岸川刑事はいらっしゃいますか」署内一の美人警察官の角田の可愛い声が部屋に響いた。「おう。ここだ」岸川は椅子から立ち上がると角田に向かって手を振った。角田の頬が少し赤らんだように岸川には見えた。
「岸川刑事宛の小包が届いてます」小包と聞いて、警報が岸川の頭の中で鳴り響いた。「角田、箱を机に上に置いて、ゆっくりと離れてくれ」角田の顔から微笑みが一瞬で消えた。角田は20㎝くらいの箱を机の上に静かに置くとゆっくりと後ずさりした。岸川刑事は箱から音が出ていないか耳を澄ませた。何の音聞こえなかったし、振動も無かった。
「どうしたんだ」木下刑事が異変に気付いて近づいて来たので、慌てて制止した。「不審な郵便物だ」「爆発物処理班を呼ぶか」木下刑事の問いかけに岸川刑事は一瞬躊躇した後に意を決したように言った。
「いや。俺が開けてみる。皆んな離れてくれ」角田のピンク色の顔が蒼白に変わっていた。岸川は小包を包んでいる茶色の包装紙の上辺部分をカッターナイフを使って慎重に切っていった。包装紙を剥がしていくとダンボールの下の方が赤黒く変色していることに気が付いた。嗅ぎ慣れた嫌な臭いが漂ってきた。
岸川刑事はその染みが血だと直感した。「爆発物処理班じゃなくて、監察医が必要なようだ」時間をかけてダンボールを開けると岸川刑事の直感が正しかったことが証明された。中にあったのは新聞紙に包まれた右手だった。手首の面が綺麗なことは鋭利な刃物で切断されたこと示していた。
「木下、手の甲を見てみろ」手の甲の入れ墨に見覚えがあった。
「山本の右手だ」。角田は切断された右手を見て、その場に座り込んでしまった。山本がまだ生きているのか。事件に関わった人間が次々に殺されていく。犯人は何を隠そうとしているか。岸川刑事は事件の核心に近づくどころか五里霧中の中にいた。
「この事件はいったいどこに向かっているんだ」木下刑事は呆然とその場に立ちつくしていた。
「木下、一連の事件は必ずどこかで繋がっている。その繋がりを何としても見つけるんだ」
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