第16話 凄惨な事件現場

 山本の妹沙苗からは有力な情報が得られなかったが、二日後には事件は二人の刑事の予想がつかない展開を見せ始めていた。岸川刑事は殺人事件の現場をいくつも見てきていたが、こんな凄惨な現場は見たことがなかった。3人の男は後ろ手に縛られていた。さらに酷いことに逃げられないように膝の骨が原型をとどめないぐらいに粉々に破壊されていた。現場の床には血がほとんど流れていなかったので、別の場所で殺害されて運ばれてきたのはほぼ間違いなかった。

「酷い現場だな」「吐き気がしてくる」「この男を見てみろ」木下はがらんとした貸倉庫の床に無残に転がっている3人の死体の一つを指差した。仰向けになった死体の胸元にあの入れ墨が見えた。

「俺たちが追っている強盗グループだ」「一体何が起きたんだと思う」

「仲間割れか」「唯一の手がかりだった入れ墨の男が殺されてしまったな」

「入れ墨の男の死因は出血多量だ。頸動脈が切られている」「こっちの奴は手首を切られている」「もう一人の男は心臓をひと突きされている」

「男のズポンを見たか」入れ墨の男の股間部分は赤黒く変色していた。岸川刑事はズボンの股間部分が切り裂かれて、ペニスが切り取られているのを見て取った。

「強盗殺人事件が猟奇殺人に変わってしまったな」

 岸川と木下は貸倉庫のオーナーから事情聴取を始めた。オーナーは六十過ぎの男だった。薄くなった頭頂部が汗で光っていた。

「貸倉庫の異常にいつ気が付きました」「異臭がすると近隣住民から連絡がありました。来てみると確かに臭うので、すぐに警察官を呼んだんですよ」

「死体があると思ったんですか」「最近はアパートを追い出された連中が貸倉庫に寝泊まりすることがあるんですよ。中で死んでいるじゃないかと思ったんです。まさか3人も死んでいるなんて、まったく迷惑な話ですよ」

「この男たちを見たことがありますか」「初めて見る顔です」「この倉庫を契約した人物について教えてください」オーナーは突き出た腹をさすった後に困ったように言った。「実は分からないんです」「分からないというのはどういうことですか。契約書を交わしているでしょう」

「相手は私の親戚の名前で電話してきたんです。声が似ていたのと前金で1年分の賃料が払い込まれてきたのですっかり信用してしまいました」「契約書はどうしたのですか」「郵送でやりとりしました。半年ぐらいして、相手が偽名を使っていたことが分かりましたが、面倒なのでそのままにしていました」岸川刑事はオーナーからはこれ以上、役に立つ情報が得られないことを知った。現場に残された遺留品と遺体の解剖結果を待つしかなさそうだった。

「岸川、この事件どう思う。俺はだんだん恐ろしくなってきた」「ああ。一連の事件には底なしの闇があるような気がする」岸川は事件の経過を思い起こしていた。手がかりをたぐっていく先々で人が死んでいく。犯人は警察をあざ笑うかのように関係者を次々に抹殺しているのだった。

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