第14話 残された手がかり
池袋のスナックのママは心肺停止状態で緊急搬送されたが、明け方近くになって死亡が確認された。二人は疲労困憊していた。山本の行方はしれず、ママは刺殺され、残された手がかりは数字のメモだけだった。
「完全にドツボにはまったな。これからどうする」木下は病院のソファでぐったりしていた。
「捜査記録をもう一度読み直してみる。何か発見があるかもしれない」
「その前に俺たち少し休んだ方がいいんじゃないか」木下に言われるまで気が付かなかったが、まる二日間一睡もしていなかった。
「そうだな。明日の朝一番に打ち合わせをすることでどうだ」木下は頷くと重い体を起こすと帰宅の途についた。
岸川は帰宅するとベッドに倒れ込むとそのまま泥のように眠りに落ちた。目を覚ましたのは午後9時過ぎだった。12時間以上寝ていたことになる。一度目が覚めるともう眠れなかった。岸川は机に向かい、メモの数字をノートの一番上に書くとその下に数字の持つ可能性を書き出し始めた。いつのまにか時間を忘れていた。夜がしらじらと明け始めていた。頭をすっきりさせるためにシャワーを浴びると警察署に足を向けていた。早朝の刑事部屋はがらんとしていた。驚いたことに木下がすでに机に向かって仕事をしていた。岸川は腕時計を見た。時計の針はまだ午前6時前を指していた。
「木下、お前いつから早起きになった」「そう言う岸川さんだって早いじゃないですか」「一度目が覚めたら寝られなくなった。何か新しい情報があるか」
「凶器の包丁から山本の指紋が発見されたそうです。目撃者の情報はありません」
「木下、山本がやったと思うか」「山本がママを殺す理由がありません。あいつに人殺しは出来ませんよ」「俺もそう思う。山本が拉致された可能性がますます高くなったな。山本を犯人に仕立て上げようとする犯罪組織は俺たちが想像するよりもはるかに巨大なようだ」
「犯人グループは外国人だと思いませんか」「荒っぽい手口は外国人のように見えるが、思い込みは危険だな」「手がかりは数字のメモだけだな」そう言うと岸川はカバンからノートを取り出した。
「10桁の数字、いったい何だと思う」岸川は木下に質問した。「思いつくものを言ってくれ」
「緯度と経度、クレジットカード番号、商品番号、金庫の解錠するための番号」
「パスワードの可能性はないのか」
「山本はパソコン持っていないですよ。あいつが暗号とか複雑なことを考えるとは思えないですが」「それじゃあ。この数字は何だと思うんだ」
「この数字が入れ墨につながる人物に関係があるとするとやっぱり電話番号とか住所のたぐいだと思います」
「こんな局番は日本にはないぞ。待てよ。もしかして、こいつは後ろから読むんじゃないのか。違うな」
「すべての数字に一を足してみるとちゃんとした電話番号になるんじゃないですか」木下が言うように数字を足してみると確かに普通の電話番号に変身した。
「山本にそんなことする頭があるかどうか疑問ですが」
「ダメ元でで電話してみるか」岸川は机の電話を引き寄せると番号を間違いないようにゆっくり架電した。呼び出し音が鳴っていた。8回目の呼び出し音に諦めかけた時に受話器の向こうから若い女性の声が返ってきた。
「もしもし」「山本さんのお宅ですか」「いいえ。坂下ですが。どちら様ですか」「私は渡辺と言いますが、友人の山本を探しているのですが、ご存知ですか」山本という名前に警戒する様子が伝わってきた。
「あなたは山本とどういう関係なんですか」「私は山本の中学校時代の友人です。東京に出てきたので、久しぶりに会いたいと思って電話しました」
「なぜ私が山本という人を知っていると思うのです」「この電話は山本から聞いていた電話番号だったので」
電話口の向こうからは何も聞こえてこなかった。ジリジリするような沈黙が続いた。岸川が声を発する前に意外な回答が返ってきた。
「品川駅高輪口にルノワールがあります。そこに午後2時に来てください」それだけ言うと坂下と名乗る若い女は電話を切った。
「ダメ元で電話したが、何かに当たったみたいだ」「今は藁にもすがる気分だ」
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