第9話 謎の系譜

 岸川刑事の一人息子岸川悟は父と同じ刑事になっていた。その遺品を調べていて、昭和43年に起きた事件が迷宮入りしたことを初めて知った。父との関係が疎遠になる前から、仕事の話は家庭では話すことがなかった。

 口に出すことは決してなかったが、父は刑事の仕事を天職と考えていたに違いなかった。帰りはいつも遅く、普通の父親のように遊んでもらった記憶もほとんど無かった。遺品のノートには父が扱った事件の概略が記されていたが、不思議だったのは父の担当では無い昭和25年に起きた事件の詳細な記載があったことだった。

 この事件に父が特別な思いを持っていたことに興味が引かれた。この事件が起きた頃の父の年齢は30代前半で刑事として脂の乗り切った頃に違いなかった。岸川悟はそれより少し若かったが、事件解決にかける思いは人一倍強かったが、すでに時効が成立しているこの事件を再捜査することは出来なかった。

 事件が迷宮入りになった原因が何かを思いつくままに箇条書きにしてみた。

第一 事件に関わる有力な目撃者が発見出来なかった。

第二 被害者に恨みを抱く人間が捜査線に浮かび上がらなかった。

第三 一見自殺に見せかけた意図を解明することが出来なかった。

第四 犯人の血液や指紋が採取されたが、当時は該当する容疑者がいなかった。

 事件からすでに40年以上を経過しており、第一については新たな発見は困難だ。第二についても捜査対象者の何人かはすでに亡くなっており、進展は望めない。第三は第二と関連していた。第四についてはその後の蓄積されたデータから犯人に結びつく可能性があるかもしれなかった。

 岸川悟は父がこの事件になぜ関心を寄せていたのかを考えていた。昭和43年の事件とは一見無関係に思えた。繋がりは目には見えなかった。何かがすでに起きているのか、これから起きようとしているのか、胸騒ぎがしていた。それは刑事の勘だった。

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