第7話 不思議な繋がり

 渡邊刑事から電話があったのは、出張から帰って一週間後のことだった。

「岸川刑事、連絡が遅くなって申し訳ありませんでした。すでに廃棄処分になったかと諦めかけていました」岸川刑事は我慢できずに言った。

「見つかったのですか」「ええ。事件を担当した先輩刑事、すでに退職しているのですが、捜査記録のもとになったノートを残していました」岸川はこの一週間の捜査の進捗状況がかんばしくなかったので、この朗報に思わず顔がほころんだ。

「久しぶりに聞くいいニュースです。実は東京に戻って、分家の方に連絡を取ったら、入れ違いで神戸の方に戻ったということで、意気消沈していたところです」

「そうでしたか。タイミングが悪かったですね。ノートの方は速達でお送りします。それから分家の方が東京に戻るのがいつになるかを私の方で確認してみます」

「そうしてもらえるととても助かります」岸川は渡邊刑事に好感を持ち始めていた。「同じ警察官同士が助け合うのは当然ですよ」岸川は礼を言うと静かに電話を置いた。「良い電話だったみたいだな」田畑刑事が向かいの席から声をかけてきた。

「なぜ分かる」「顔を見れば分かるし、嫌な電話の時は受話器を叩きつけるように置くからな」「俺はそんなに電話を乱暴に扱っていたのか」「灯台下暗しとはよく言ったよな」「例の捜査記録のもとになったノートが見つかったそうだ」

「そんな古い事件が今度の事件に関係あるのかな。それより、岸川、解剖所見を読んだか」岸川は今朝、届いたばかりの解剖所見をまだ読んでいなかった。

「何か気になることがあったのか」田畑刑事は向かいの机から立ち上がると岸川刑事の脇に回ってきて、開いた解剖所見を机の上に置いて、指差した。

「ここの部分を読んでみてくれ」岸川は田畑の指差した箇所を読んで驚愕した。

 解剖所見には、権藤祐三の首の写真が何枚か貼り付けられていた。そして、解剖医は、首のまわりのロープの跡が二重になっていることを指摘していた。権藤祐三の死因は窒息死であることは間違いなかったが、絞殺された後に吊るされたことを二重の跡が示していた。

 だが岸川が本当に驚いたのは、由紀子の遺体に残された犯人のメッセージだった。それは、切り裂かれた陰部ではなく、咽喉から発見された。それは、切り取られた舌だった。喉の奥に切り取られた舌が押し込められていたのだった。

「こんな残酷なことをする奴は初めてだ」「確かに酷いな。権藤夫妻に相当な恨みがあったにしても犯人は異常者だ」解剖所見には喉から取り出された舌の写真もあった。

「この舌に刻まれた物は何だと思う」「記号のようにも見えるし、数字かもしれない。犯人は真性のサイコパスだ」

「この殺人者には、死刑台が待っていると言ってやりたい」岸川の言葉に田畑も頷いた。その時は分からなかったが、岸川も田畑も解剖所見に記載された事実の重要な部分を見逃していた。

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