第6話 行き詰まる捜査
岸川と田畑刑事は由紀子の実家、畠山家を訪ねるため、4年前に開業したばかりの新幹線に乗っていた。初めて乗る新幹線に二人の刑事は興味津々だった。鉄道好きの田畑刑事は子供のようにはしゃいでいた。
「それにしてもドケチな課長がよく出張を認めてくれましたね」捜査よりも経費削減に熱心な杉田課長が出張を珍しく簡単に認めたので岸川は拍子抜けした。
「結果を出さないと後がこわいぞ」畠山家は神戸にあるため、新大阪からは在来線に乗り換えた。実家を訪ねる前に所管の灘警察署に挨拶に行った。
「わざわざ東京からご苦労ですな。畠山家の本家を訪ねるということですが、今は誰も住んではいませんよ」灘警察署の渡邊刑事は残念そうに言った。
「どういうことですか」「畠山家は元華族の資産家だったことは知っていますか」「戦前は裕福な暮らしをしていたようですね」
「戦後、GHQの占領政策により、元華族のほとんどが没落しました。畠山家もその例外ではありませんでした。それに拍車をかけたのが、戦後間もなく起きた事件でした。悲惨な事件で一家全員が惨殺されました」岸川も田畑も耳を疑った。
「戦後すぐは数多くの残虐な事件が連続して起きたためなのか。この事件は地元の新聞社が報道しただけでした」「今、一家全員と言いましたが、由紀子さんが残っているじゃないですか」
「由紀子さんは分家の方に預けられていて、運良く難を逃れたのです」岸川はその時、初めて由紀子が分家に預けられたことを知った。
「両親を一度に失った由紀子さんは分家の養子になったわけです。分家では可愛がられたようです」「それにしても由紀子さんまで殺害されたとは。畠山家は呪われていますね」「本家は誰も住んでいないということですが、誰が管理しているのですか」「分家が管理しています。殺人事件があったので、買い手がいないようです」「分家は戦後をうまく生き延びたということですね。分家の方を訪ねることにしたいのですが、案内してもらえますか」
「分家は本家のように広大な土地を持っていなかったので、商売の方で大儲けしたと聞いています。分家を訪ねるということですが、由紀子の両親は東京に住んでいますよ。屋敷はこちらにもありますが、たまに帰ってくるだけです」岸川と田畑は顔を見合わせた。課長にまた苦言を言われるのが目に浮かんできた。
「渡邊刑事、当時の捜査記録を読んでみたいのですが、お願いできますか」渡邊刑事は視線を宙に這わせていたが、しばらくしてポツリと答えた。
「その事件はもう18年も前のものです。戦後の混乱期ですから捜査記録が倉庫に残っているか調べてみないと分かりませんが、とにかく探してみます。どちらにしてもご連絡しますよ」岸川は礼を言った。二人は手ぶらで東京に戻るしかなかった。
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