第3話 池袋は人の雨

 池袋にある医者へ行く。私は東京には住んでいない。遠い。〇×線沿線まで車で30分ほど送ってもらって、そこから一時間半ほどの距離だ。それでも行くのだ。

人とうまく喋れないことを医者に訴える。すると、「あなたは薬は飲んでいるようだが、人と話すことに関して、改善する努力をしていない」と言われた。あたりさわりのないことしか言わない精神科医の中では珍しい医者だ。そこでカウンセリングを勧められた。一時間7,000円也。まだ受けるかどうかは決めていない。

 診察が終わり、薬も手に入れると、私は池袋をぶらつく。見ろ、まるで人が雨のようだ。俺の心をびっしょりと濡らしていく。人が真横を通り過ぎるたびに心臓が破裂しそうになるほど緊張するのにいまだに池袋に通っているのは、東京への憧れがぬぐい切れないからであろう。世界の中心は東京だ!私にとって、世界の中心とは東京なのだ!

 私はいったい何のためにこの文字を綴っているのだろうか。日々の生活をより生きやすくしたいからだ。あのメガネのスーツを着たサラリーマンとうまく喋れない。なぜ彼は私をそんなに敵視するのだろうか。スーツで来るならどこかの高層ビルの35階に勤めていればいいのに。今日一人女の子がセミナーを辞めた。午前中だけ授業を受けて午後は帰っていった。最後にあいさつもしなかった私はクラス全員から非難の目を向けられたように思えた。私なんかから挨拶されてもうれしくもないであろうに。やはりここは私の生きる場所ではないのだ。

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