第17話5月15日/乙女ゲームをクリア


 そして、王が即位して7年後、王権の譲位が行われた。


 やむなく彼が新王になった。そして腐敗した閣僚達を一気に更迭した。宮廷魔術師、貴族、御用商人も大量に処分した。

 王宮にいる人数が一気に少なくなったような気がする。


 元王は、子爵として辺境の領地に移された。もちろん彼に領地管理能力などないので、私の息子の一人が その任に当たる事になった。

 妹も、その方が安心だと言っていた。

 アイツは、何とも情けない男であった。


 私達は、充実した とても忙しい日々を持つ事になった。それは延々と続いた。

 何分なにぶん信用できる閣僚の人数が圧倒的に少なかったのだ。


 突き詰めれば、私達を含めた親友同士である6人しかいない。同級生の中から優秀だった者達、友人達を呼び戻した。

 それでも足らなうので、その子供達まで動員した。男女年齢関係なく様々な業務をこなさなければならなくなった。


 王が近衛騎士団長、王国騎士団長を兼務し、それらの副職と財務長官を私が担った。

 書記長官が、内政全般を、その妻が その副官を担った。

 司法長官が、外務全般を、その妻がその副官を、宮廷魔法士長官が……、典医長が……。


 そして、引退した 大学の研究員や公認家庭教師を、各地域に新設した『国立義務教育塾』の講師として雇用し、後継者を育成するために全国民に対し門戸を開いた。


 身分など無視した完全義務教育制を実施したのだ。だって、能力のある者を逃がすわけにはいかない。全閣僚が、いや全国民が動き始めた。

 それでも、王宮に必要な人員が揃うまで、約10年掛かった。


 即位後18年目である本日、王太子の即位式典が行われた。


 彼は、やっと王権を放棄することが出来た。

 「やっと開放された」それが、彼が帰宅して最初に発した言葉だった。

 こらこら、息子に丸投げはないだろう、と言うと。

 「大丈夫。ちゃんと教育して来たから」そう答えて、彼は本当に、政界から完全に引退してしまった。


 ああ、本当に嫌だったんだ。


 私たち(同級生たち)も全員 引退した。

 新世代よ頑張れ!


 ある日、元閣僚と その婦人達が集まって同窓会をしていた。

 昼食会も兼ねてである。そろそろ最後の お茶が振るまわれるタイミング、その時を狙ったかのように、ポツリと彼が呟いた。

 「一緒に冒険者にならないか」


 私達は その日の内に、そっと邸宅を抜けだして街に出た。「善は急げ」である。バレたらヤバい。


 まずは、本当に冒険者になれるかを確認しなければならない。


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