第16話5月1日/これが乙女ゲーム?


 そして私は、すっかり あのイベントの事を忘れていた。


 第一王子が殺された。

 失敗するはずなのに、なぜか成功してしまったのだ。


 昼食の時間、城内の王族が全員集まった団欒の時間だった。

 突然 剣で斬りかかったそうだ。家族だけだったので警備は手薄になっていた。王の意向だったそうだが、それが仇になってしまった。


 犯人は第二王子で、捕縛したのは宰相の息子、彼だ。


 しかしながら第二王子を罪人にするわけにはいかない。王位継承者が彼しかいないからだ。

 結局、王位継承権争奪戦の一環と言う事にするらしい。


 うーん、……何だかな。


 私は今、このルートの選択を後悔している。

 ……重い。乙女ゲームの感触じゃなくなって来ている。

 さっさと終わらせたい。


 王子の婚約披露パーティ、同時に私と彼も婚約した。特に大きなトラブルは起きていない。国内も国外も思ったほどの動揺はなさそうだ。


 パーティの最中なのに、この国の閣僚たちは王子の元にはいない。やっぱりそうだろうね、当然だよ、バカだもの。

 でも、なぜ私達のところに集まって来るのよ。


 王子が結婚の式典を開いたのは それから5年後。

 時を以って ほとぼりを冷ました、と言う事だろう。私と彼(宰相見習い)は、その4年前に結婚している。


 彼は思いのほか 家庭を大切にする人格者だった。良い夫であり、良い父親である。子供達と遊んでいる姿は、とても微笑ましい。


 仕事は大変だろう、あの王子バカのフォローを全て任されているのだから。でも、そんな事を家庭に持ち込む事は一切しない。本当に良い夫だ。


 前王が引退し、王子が即位したのは更に その5年後。その頃には宰相も、書記長も、司法長官や、その他の閣僚も世代交代していた。


 新王が誕生した時点で、すでに権力の移譲は完了していた。

 閣僚が大きな権限を持ち、王権は極力縮小された。もちろん これは前王の意向があったから出来た事だ。

 前王は、新たな王に『その権力を正しく運用する能力がない』ことを十分 承知していたのだ。


 王位は象徴しょうちょうとなり、名前だけの存在となった。


 宰相は最高権力者となった。が、この状態は彼の望んだものではなかったようだ。


 ハッキリ言って嫌がっていた。

 「こんな面倒な事は まっぴらだ!」と。でも、国民が、閣僚達が、世界情勢が それを許さなかった。


 しかし5年もすると、権力の脆弱さが露呈し始めた。権力の二重構造は有力貴族や古参閣僚の跋扈を許し、腐敗した権力は一気に国力を低下させた。


 彼らは、王権の強化(あのバカの権力を強化し、操り人形とするためだろう)を望んだ。

 もし私の妹が、あのバカの傍にいなかったら、彼らの思い通りになって この国は終わっていただろう。


 それでも、私達が いくら頑張って、いく良い提案をしても却下されるようになった。


 前王も苦慮していた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る