第7話 女の子

峯岸は原チャリで女の子と二人乗り。


更に遠くの海を目指す。


久しぶりの二人乗りは凄く違和感があった。


スピードもでないし、曲がるのも大変だ。


しかし、自分の腹に感じる両腕の感触は悪くないと思っていた。


あと、背中に感じる胸の膨らみも。


海岸をなぞるように伸びる道路はどこまでも続いているようだ。


それを辿って次の海へ。


「青い海がいい!」


女の子は峯岸の背中でそう叫ぶと、その両腕を更に強く絞めた。


海岸線をひたすら走り半島をぐるりとまわったころ、海が驚くほど青くなった。


「ここがいい」


「そうだな」


峯岸は原チャリを止め砂浜を歩いた。


キュッキュと響くその音はまるでガムでも噛むみたいに心地いい。


その砂を手にとると、溶けるように指先から抜け落ちた。


「うぎゃ!」


波打ち際までいっていた女の子が叫んでいる。


叫んでこっちに飛んできた。


「クラゲ踏んだ!」


「そいつは可哀相に」


クラゲが。


「ねえ?」


「何?」


「この後はどうすんの?また次の海?」


「そうだなあ…」


峯岸はそういいながら海をみる。


「もう帰るの?」


「ああ。そりゃあいつかは」


峯岸には学校だって将来だってある。だからいずれ帰る。


「へえ」


女の子はつまらなそうに答えた。


「クラゲってさ」


不意に話しが変わった。


「死なないんだよ。知ってる?」


「そういうヤツもいるって事だろ」


「うん、そう。体の一部があれば何度でも再生するんだって」


「それが?」


「人間もそうなるのかな?」


「へ?なんで?」


「だって、理屈じゃ出来るんでしょ?偉い人が研究して人間用に改造して」


要するに不老不死の仕組みを人間に応用するという意味らしい。


「そんなの欲しいか?」


「……」


女の子は黙ってしまった。


例えば…。


人間に不老不死は必要か?


言い換えれば永遠に死なない人は幸せか?


峯岸は考えてみた。


そして、簡単な答えに気付く。


永遠に死なない人は…。


その永遠が終わらないとその生涯が幸せかどうかがわからない。


しかし、永遠は終わらないから永遠だ


だとすると、永遠の命が幸せかなんて永遠にわからない。


「もし、そんなのが出来るなら…」


考えている峯岸の横で女の子が呟く。


「出来る前に私は消える」


女の子は、立ち上がると海に向かった。


そして波打ち際まで行って立ち止まる。


立ち止まると今度はスルスルと服を脱ぎ出した。


誰もいない砂浜。


峯岸は裸の女の子と二人きり。


「どう?」


「どうって?」


「ひどいでしょ?」


それは正直、峯岸もそう思った。


女の子の肌は痣だらけだった。


「どうしたんだ?」


聞かなくもわかる。殴られなければ、ああはならない。


「私の体は傷ついてる。外見はね」


「外見?」


「中はもっと汚いよ」


女の子はいつからか涙を流していた。


峯岸は黙ったまま。


「みんなで…。よってたかって…」


おぞましい光景に想いが到って峯岸は顔をしかめた。


「好き放題人の体を…」


サクサクと砂浜を歩く音が近づいてくる。


目を開けると、女の子が目の前に立っている。


「アンタしたことある?」


「まあ」


「どう?私とできる?」


峯岸は何も答えず女の子を見ていた。


一応、どうしたらいいか考えていた。


「やっぱり嫌?」


何も言わない峯岸に女の子は尋ねる。


「汚い女とはしたくない?」


峯岸は黙っている。


そして思った。


”クラゲと一緒だ”


してもしなくても、傷つけるかも知れないしそうじゃないかも知れない。


きっと答えは永遠にわからない。


幸せなんて、今じゃないいつかじゃないとわからない。


「お前はさあ…」


「え?」


「俺としたいの」


「べつに、どっちでも」


どちらにしても答えはない。


峯岸は突然立ち上がった。


そしてこれまた突然女の子を抱き抱えて海に走った。


バシャバシャと海に入ると、今度は女の子を海に放り投げる。


女の子はブクブクと海に沈んだ。


「ブハッ!ちょっと何!」


出て来た女の子に今度は飛び付いてまた海の中に。


峯岸は女の子と海の中。


バシャバシャともがいている。


「ブハッ!何よ!何なの!」


「洗ってやるよ」


「え?」


「汚れたら洗えばいいんだ。そうすればきれいになる」


女の子は、呆然と峯岸を見る。


峯岸はそれを見て大声で笑った。


「コノヤロー!」


今度は女の子が峯岸に飛び付いた。


「洗えるもんなら洗ってミロ!」


峯岸は海に沈んだ。


あいにく海はきれいだ。きっと汚れもおちる。

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