第2話 ピストルの使い方

峯岸と立川は、河川敷の橋の下。


鉄橋を電車が走るのを見計らって銃を撃った。


「本物だな」


「本物だ」


手にしたピストルが本物だと判ったとき、峯岸は、それで橋げたに傷をつけたことを後悔した。


「どうする?」


「どうするって?」


その鉄の塊は、二人の手には重たすぎる。


「整理しよう」


「整理って?」


「今の状況を整理しよう」


「んあ」


状況の整理が何になる?


子供二人とピストル一丁。それ以外には何もない。



「ピストルってさあ」


「ん?」


「真っ直ぐ飛ぶよね?」


「ああ、弾がね。だから?」


「だから好きだな」


「そうか?」


立川は、峯岸の手からおもむろにピストルを奪った。


そして・・・


その銃口を峯岸に向ける。


「真っ直ぐ飛ぶよね?」


「ああ、弾がな」


いつまでたっても立川は銃口を峯岸からそらさない。


峯岸は、だんだんイラついてきて、結局立川に殴りかかった。





「ヒャハハハハハ」


立川は口から血を流しながら笑っている。


「ビビッた?」


「別に・・・」


「殴ったじゃん?」


「ムカつくな?」


「んあ」


峯岸は立川からピストルを取り返した。


弾倉から弾を取り出す。


さっき撃ったから残りは5発。


その内、1発を弾倉に詰め返し。レンコン型のその弾倉をジャーと回した。



峯岸は立川に銃を向けた。


「やめろよ?」


「どうかな?」


この引き金を引いても、弾が出る確率は6分の1。


”俺はこいつを殺せるか?”


峯岸は考えた。


考えたら頭が痺れた。


その時、鉄橋を電車が轟音響かせ走り抜ける。


峯岸は考えるのをやめた。


考えるのをやめて引き金を引いた。


カチリッ


弾倉が回っただけで弾は出ない。


「なるほどなあ」


峯岸はぼやけた視界でピストルを見つめた。



「やめろって言ったろ!」


立川は怒ってる。


殺されかけたのだから無理もない。


峯岸は痺れた頭で立川の言葉を聞いていた。


そして、立川に笑いかける。


「ピストルってさあ?」


「んあ?!」


「真っ直ぐ飛ぶんだろ?」


「んあ!弾がな!」


「やっぱいいよな」


立川は怒るのをやめた。


やめて大きくうなずいた。



「だろ?だから言ったろ?」


「ああ」


あの時、弾が真っ直ぐ飛んでいったらそれはそれで満足だったかも知れない。


立川までの距離、数メートル。


その距離を一瞬でピストルが埋めてくれたのなら、それで満足だったかもしれない。



その後、峯岸は立川にピストルを渡し、同様に引き金を引かせた。



「んあ!」



同じように弾倉はカチリと音をたてて回転しただけだ。


ただ、立川は随分満足気な顔をしている。


”これだけで満足なら・・・”


弾なんて込めないほうがいいと峯岸は考えていた。



「さて、どうする?」


「なにが?」


「これだよ?」


「んあ」


もてあましているのはピストル。


「正しい事を・・・」


「だな」


二人には正しい事などわからない。


だったらせめて・・・。


「埋めるか」


「だな」


このままでは、二人は誰かを殺してしまう。


それはきっと正しくない。


だったら、せめて埋めてしまおう。


鉄橋の下の橋げたのフモト。


そこに、二人はピストルを埋めた。


埋めたあと、場所がちゃんと解るように、橋げたにキズをつけた。


”宝↓”


峯岸の心が少し痛む。できればしたくなかった。


しかも、キズ。ペンキみたいに消えない。


消せないラクガキなんてするもんじゃないと峯岸は思っていた。


でも…。


「おじさんとこ行くベ?」


「んあ」


とりあえずご報告。



おじさんは、公園で散歩中。


「おう」


「ども」

「どもス」


「どした?」


「とりあえず…」

「埋めました」


「そうか」


おじさんは、納得したのか?


「まあ、いいんじゃないか?」


「正しいですか?」


「うん、まあ」


「正しくないですか?」


「うん、まあ」


おじさんは、うわのそらでそれに答えた。


峯岸は不安になる。それなりに自信があったから。


「おまえら、もっとワガママで良いんじゃないか?」


ワガママ?


「正解なんて…。答えに縛られる必要なんてないぞ」


答え?正解?


峯岸は考えた。自分は答え探しをしてたのかと…。


だとしたら、バカげてる。


答えなんていらない。


「ほら、今日はこれだ」


「これは?」


「見ればわかる」


包みをあけると、聖書が入っていた。


「持ってるだけでいい」


峯岸は頷くものの、ピストルくらいもてあましている。


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