ライツ

枡田 欠片(ますだ かけら)

第1話 金の使い道

峯岸龍太と立川ヒロシは原チャリに二人乗り…。


夜の街を駆けていく。


「しかしさあ〜」


「んあ?」


「面白くもなんともないよね〜」


「まあね〜」



アクセルをを限界までひらけば、それなりにスピードはでた。


スピードの中に溶ければ街の明かりは揺らいで見えた。


それが何か面白いのか?


面白くもなんともない…。


だったらスピードなんか控え目にしたほうが身の為だと、峯岸は思っていた。


「おじさんとこ行くベ?」


「だな」


「今日は何かくれるかな?」


「さあな〜」


峯岸はスピードを落とすと、公園に向かいゆっくりと路地に入って行く。


おじさんに会う為だ。


おじさんは公園に住んでいるが、金持ちだ。


この前は20万円くれた。


なんで?と聞くと、「何か正しい事に使ってくれ」と…。


正しい事。


それが二人には解らない。



「寄附する?」


立川がそう言ったので、二人はとりあえず10万円を駅前の募金の人に渡した。


結果はどうだったか?


最悪だった。


募金の人はひたすら感謝してきたが、その目が気に入らない。


薄気味悪く笑っている。


まるで、こう言っているようだった。


”毎度あり”


峯岸は無性に腹が立ち、そいつを殴った。


そして二人は、残りの金で原チャリを買った。


「おう」


おじさんは食事中だった。


豪華にバーベキュー。


「食えよ」


「ども」


二人は、焼き上がった肉をほうばる。


「どうだ?」


「ウマイす」


「いや、カネの方。正しい事の方」


「ああ」


「寄附しました。駅前の人に」


「最悪だな…」


「ええ最悪でした」


「やっぱりカネは人に任せちゃ駄目だな」


「でも…」


峯岸は全てが間違っていたとまでは思っていない。

「でも、ちゃんとした人に寄附すればも少し変わりましたかね?」


控え目に峯岸は聞く。


立川がそれに続く。


「誰かの為になれば良くないスか?」


「誰かって誰よ?」


「誰って?」

「誰スかね?」


「質問を変えるか?俺が知ってる誰か。おまえら知ってるか?」


「知ってるか?って…」


「俺の知ってる誰か。おまえらの言ってる誰かと同じやつか?」


おじさんは、次々聞いてくる。峯岸と立川は考えた。


考えても答えなんて最初から同じだ。


「同じじゃないスね」

「違いますね」


「だよな」


言ったきり、おじさんは黙る。肉を食いだした。


二人も合わせて肉を食う。


「その誰かはさ?」


「誰スか?」


「あー、その誰かと誰かはさ?」


「あーはい」


「同じように同じ事したら。同じに喜ぶのか」


峯岸と立川の頭の中に顔の無い人間がぐるぐる回る。

「スイマセン。もう1回」


「つまり、全ての人間が同じ事を同じように喜べるか?」


「無理ス」

「無理スね」


「だろ?」


「はい」

「んあ」


「寄付なんて、しない方がいい。誰かに任せたりしない方がいい」


「なるほど」


「その点、あれは正解だな」


「どれスか?」


「あれ」


誰が誰で、どれがあれだか……。


おじさんは、原チャを指差した。


「ああ、あれですか。そうですか?」


「あれは正解だよ。どこでも行ける」


「どこでも?!」

「ヒャハ!」


「少なくとも今より遠くには行ける」


「あー。行けますね」

「ますね」


「遠くを目指すべきだ。若いんだから」


「あーはい」

「んあ」


峯岸は少し困った。原チャリを買ったのは遠くに行きたかったからじゃない。


ラクだから。あと、たのしいから。


「今日は、これをやる」


「これは?」


「見ればわかる」


「はあ」

「んあ」


峯岸は、おじさんから紙袋を受け取った。


重い。


「これって?!」

「って?!」



ピストルだった。


「何か正しい事に使ってくれ」


「正しい事に…」


峯岸は少し考えた。正しい事とピストル。二つの事がつながらない。


峯岸はピストルを持ってみた。


手に吸い付くような、グリップに何か書いてある。



”Right”



正しい事?それが解らない…。



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