三神山

「そうか…ナムヂはスガの地を継いでいる家系なのか」


「さよう!ところで頭のくしはもしや…」


「ああ!母だ!」


「おお!やはりそうか!いやっ?!待て待て…スセリ殿の母では無いだろう。クシナダヒメはもっと昔に…」


「う~ん…その辺りはトシにぃが詳しく知っていると思うが…私もよく分からん!」


「うむ?色々複雑なのかな?まぁスサノオの家系だからな!ワッハハハ…」



 五人はナムヂの家が有る、スガの里に向かっていた。


 先頭の兎女のシラは、トヨに時折飛び付いてはじゃれている。

 トヨも無表情だが楽しんでいた。


 その後ろのスセリとナムヂの話を横で聞いていたチョウは、会話の内容にまったく付いて行けず首をかしげている。

 何となくスサノオの家系は複雑怪奇ふくざつかいきなのは理解したようだ。


 あれから三日が過ぎ、幾つかの村を見てきた。

 スサノオの支配する国々もしっかりした国だと、チョウは感心していた。

 特にビックリしたのは銅剣を腰に差している男が多いこと。

 何時攻めて来られても対抗出来るよう、常に準備をしている。

 この国のおさはちゃんと民の統制が取れて、規律をととのえていると、チョウは考えた。


「スセリ、スサノオどういう男だ?ただの傍若無人ぼうじゃくぶじんな男では無いだろ?」


「ただの傍若無人ぼうじゃくぶじん非道ひどうな男だ!」


 スセリはそれ以上喋らなかった。

 すると横からナムヂが…


「スサノオは確かに横暴おうぼうなお人柄。だが頼りに成るのも確か。人生経験が豊富な分、色んな知識も有るし、決断も早い」


「ほう…」


「チョウ殿と言ったな。申し遅れたが俺はスサノオの六世目の子孫になる者だ」


「えっ?」


此処ここいらでは当たり前だが、異国の方はまず驚く。しからば、まずスサノオの秘密を教えよう」


「うむ…」


「信じられんかも知れんがスサノオの年齢は、少なくとも五百歳は超えている」


「な、なんと?!」


 スセリは眉をしかめながらニヤリとした。


「チョウ…くに神種かむくさ…存在すると思うだろう?」


「ああっ!!そういう事か!いや、待てスセリ!ならばヒミコ、スサノオ姉だ!長生きとは聞いてるが…まさか?!」


「『三神山サンシンサン』って三つの神山って書くんだろ?実は三人の神が居る山(島)って意味だったのかも知れないぞ」


三神山サンシンサン従来なら蓬莱ほうらい方丈ほうじょう瀛州えいしゅう浮島うきじま指す。ヒミコ、ツクヨミ、スサノオの三人指してたと言うことか?」


 チョウはツクヨミの事を思い返していた。


 物静ものしずかそうな四十代位の男だった。

 とても五百歳を超えた人間には思えない。

 ただ確かに普通の人間では無い〝〟を感じていたが、それが何か朧気おぼろげで、その時は分からなかった。


神種かむくさとか三神山サンシンサンとか何の事だ?」


 ナムヂは不思議そうな顔して聞いた。


「ああ…何でも無い。こっちの話だ。それよりチョウ!三人が不老なのは、この辺りの老人に聞いても間違い無い事実だ。完全な不死なのかは誰も知らない。現実に三人は一度も死んで無いからな」


 スセリは慌てて話を進めた。


「うむ。分かった。個人的にもその宝、興味湧いた。秘密、知りたい」


「それが禁厭まじなひなのか、調合した薬なのかは分からない。たが三人は絶対その影響を受けて、長寿になっている」


「スセリ殿!さてはスサノオの長寿の秘密を見出みいだしたか?!」


 ナムヂがさっして乗り出してきた。

 スセリは静かにするよう口元に指を立てる仕草をした。


「誰にも言うなよ。オヤジにバレたら絶対妨害される。それにまだ、その神種かみくさが本当にこの世に残っているのか、そして私らで扱える物なのかすらも全然分かっていないんだ」


「ふむふむ。して、お二人はどちらに向かう?」


「聞いてどうする?」


「いや、長旅なら荷物係の一人は居た方がよかろう」


なに付いて来ようとしてるんだよ!来んな!」


「ワッハハハ!水くさい事を言うな!親戚だろう。これも何かの縁!こんな面白い話を聞いて『じゃあ、頑張って探してね』で、済むわけがない」


「あのなッ!私らがそれを求めるのは、私はこの倭の国の未来の為!チョウは自国の未来の為!それぞれ立派なこころざしが有るからだ。お前、遊び半分で付いてきたいだけだろ!」


「いや、俺もこころざしが有るぞ…」


「どんな?」


「助けてもらった恩返しだ!役に立ちたい!」


「えっ?!」


「出会った恩人とは縁を深めて行く。俺の志しだ!諦めろ!ワッハハハハ…」


「プッ!お前、本当面白いな!ハハハハ…」


 ウズメの影響だろう。

 スセリはナムヂみたいな楽天家のお調子者が嫌いで無かった。

 ナムヂはこれはこれで大真面目おおまじめなのだが…


「皆さ~ん!ナムヂ様のお屋敷見えて来ましたよ!」


 シラが前方で飛び跳ねながら叫んでいる。


「え~!!スガの屋敷ってあんな大きいの?!あれもオオヤさんが建てた屋敷か?」


「ああ、そうだぞ」


 山の麓に、この時代には珍しい庭付きの大きな木造屋敷が立っていた。

 屋敷の回りはグルリと木々に囲まれていて、林の中に〝デン〟と、そこだけ浮いた感じになっている。

 大きさから住んで居るのは一人や二人では無さそうだ。百人は住めるだろう。


「スセリ殿は母方の実家なのにおとづれたこと無いのか?」


「ああ…私は他国ばかり行って、親戚宅は余り立ち寄らないからな…」


「そうか。じゃあ兄達も顔を合わせるの初めてか?」


「実はそうなんだ。スガの人達は名前も余り知らないんだ」


「では馳走するので、挨拶すれば良い。俺の母も喜ぶだろう」


「そうだな。ついでに兄達にのろひをかけるの止めるよう言っといてやるよ」


「これは、すまない。スセリ殿の言う事なら流石に兄達も耳を貸すだろう。ワッハハハハ…」


 ムナヂの言葉に一抹いちまつの不安を感じながらも、五人は屋敷に足を踏み入れた。

 そして予想通りと言うべきか、いきなり手荒い洗礼が待ち受けていた…


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