八十の呪
〝ザッ!ザッ!ザッ!〟
少し小高い場所から
スセリは黄色い布を振り回して、
〝ブフゥッ!〟
興奮した
スセリが布を横に構え、これを待ち受ける。
〝ドドドドドドォォォォォッ…!!〟
音をたてながら
巨体が目前に迫り、スセリは足を踏ん張り、布を横手から振り抜いた。
〝ビシァァッーン!〟
大きな角がスセリに触れそうな瞬間、布は
巨体が吹っ飛び、樹木を三本薙ぎ倒しながらゴロゴロ転がっていく。
大樹にぶつかり、腹を見せながらやっと止まると、先の
スセリは〝パシッ〟と布を一振りして
「
兎女に言われ、上を見ると翼の手をした
「きりが無いな…」
スセリはそう呟き、次いで…
「ハヤスセリテマジコレ…」
と、唱えながら布を放り投げた。
布は蛇のようにクネりながら空を泳ぎ、そして
スセリが翳した手の平を〝グッ〟と握ると、首に巻き付いた布も〝グッ〟と絞れ、そのまま
布は仕事を終えると、持ち主の所に戻ってゆき、スセリの首を優しく巻いた。
「すごぉ~い!すごぉ~い!強すぎ~!!」
兎女は飛び跳ねて、歓喜した。
「失礼…お主、先ほど『スセリ』と呼ばれていたが、あのスサノオ殿の娘のスセリか?」
ナムヂは改まってスセリに聞いた。
「…ああ…そうだ」
「おお!そうで有ったか!実は俺達は根の国に行こうとしてた所だったんだ」
「えっ?!何しに?」
「いや、先ほども言ったが兄達の悪戯が過ぎるので、母に根の国に行って
「オヤジの所行っても
話を聞くと、ナムヂ達は三日前に根の国に向けて出発したのだが、
「いったい何をしたんだ?兄貴達に?」
「いや、別に…うぉぉおおお!!」
話してる最中に炎を
スセリが
「別の術者か?!兄は何人居る?」
「それが…おおお!」
今度は真ん中から二つに割れた
スセリがこれも
「お前このままじゃ命いくつ有っても足りないな…」
「ワハハハハハ…そのうち悪戯するのも飽きるだろう」
「ナムヂ様!こんなの悪戯じゃ無いですって!明らかに殺そうとしてます。スセリ様、聞いて下さい。ナムヂ様はお
兎女が兄達を庇うナムヂに変わって語りはじめた。
「それというのも、ヤガミヒメが心優しいナムヂ様を婚約者として選んだからです。兄様達はヤガミ様に求婚しておりましたが、全員振られたのです」
「ヤガミヒメ?あの因幡のヒメか?絶世の美女と聞くぞ!この変な奴を婚約者に選んだのか?」
「変な奴?おお!それは個性が有るという
ナムヂはお辞儀をしたが、スセリはあえて無視をした。
「実は
「なるほどね…婚約者ってそうやって探すんだ。私は恋という物をしたこと無いから勉強になった」
「そしてシラがナムヂ様をご紹介して、ヤガミ様はイヅモに
「こら!シラ!兄達は嫉妬なんかしていないぞ!」
「してるじゃないですか!
「スセリ殿ちょっといいか…」
ナムヂはスセリを呼んで皆に聞こえないようコソコソ聞いた。
「実は知ったか振りをしていた。〝嫉妬〟てなんじゃ?」
「お前そんな事も知らないのか?いいか、嫉妬っていうのは強い奴を見て『自分はいつかあれ以上強くなってやる』って思うことだ。だからあの兎の言ってる事はおかしい。嫉妬ではない。兄達が
「なるほど!」
〝ポンッ〟と、ナムヂが手を叩いた。
「ならばヤガミヒメとの婚約を止めれば兄達の悪戯も止むのだな…しかし、それでは
「う~ん…お前は因幡の王になる気が有るのか?」
「無い」
「なら結婚を断っても問題ないだろ」
「うむ。そうだな。ヤガミヒメには土下座して婚約を解消してもらおう。では、これから家に帰ってその
「私ら護衛ついでに付いていってやるよ。どうせ通り道だし」
「これは何から何までかたじけない」
「その代わり
「分かった」
二人が喋っている間にも飛んで来ていた炎の石を、スセリは何個も叩き落としていた。
トヨはこの
「トヨ!兎が居るから
「い、今気付きました…あの女の子…何で飛んでるんですか?
「違うよ。それより気をつけろよ。トヨの結界に触れると兎に戻るぞ。そうなると命の保証は無い」
「えっ?!」
「私は兎が大好物だからな」
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