始皇帝が探した宝

「はい!まだまだいっぱい有るよ!食べて食べて!」

「いや!柿、もういい…」


客人用の特別な斎堂さいどうで、チョウは食事を持てなされていた。

酒や米の粥、大豆や瓜みたいな田畑で獲れた物ばかりで無く、海の幸に山の幸が豊富に並んでいた。

ツクヨミとの会談後、チョウはスセリ達と三人でこの大きな部屋で寛いでいる。

トヨは疲れたのか、浮きながら寝ていた。


たいした力だね…あの子一人いれば村一つ飢えに困らないだろうに…」

「私、手ちぎれ、足折れてたのにあの子治した」

「生命力を活性化する禁厭まじなひなのかね…」


部屋には百個ほどの柿が置かれていた。

トヨが実らせた物だ。

その柿も含め、ウズメは接待係のはずなのに、なぜか客人より多く酒や馳走ちそうしょくしていた。


「ウズメさん…また太ったんじゃない?…」

「そうなんだよね…最近さいきんしびらの紐が届かなくてさぁ…」


スセリに言われ、ウズメは衣をまくって腹の贅肉を摘まんでみせた。


「チョウさん聞いてくれるかい。昔はさぁ、しりを出して踊ってたら皆喜んでくれたのにさぁ…最近は尻出して踊ると、『ババアが尻だすな!』って怒られんだよ。酷い話だと思わないかい…」

「はぁ?……」

「ハハハッ…食べてる時にしりの話は止めろよ!」


スセリはそう言いながらも、楽しそうに笑った。

そして魚をかじりながら、チョウと語り出す。


「なぁチョウ…チョウはこれからどう動くんだ?」

「そうだな…私、ヤマトこくとクマこく、仲裁来た。だが部下殺された。魏に戻って更に兵を引き連れクマ国に…」

「ま、待ってくれ!大規模な争いは止めてくれ!」

「駄目だ。このままだと魏の面目、保たない」

「戦争が始まって死ねのはまず弱い人間からだ。クマソにもいい人は沢山いる。一部の奴らの為に犠牲になるのは可哀想だ!」

「その国の王、従う以上仕方ない。最小限の犠牲して、降伏させる」

「クマソの奴らには必ず詫びを入れさす。だから兵を倭の国に入れるのは待ってくれないか。頼むよ……」


スセリは手をすり合わせて頭を下げた。


「うむっ……スセリ恩人。少し待とう。但し、魏にこれ以上歯向かうなら…」

「分かった。約束する。必ずクマソの奴らには何かしらの責任は取らす」

「あと、私の部下殺した術者は絶対許さない。私、直接制裁する。いいな」

「……分かった」


スセリは少し口を尖らせながら、納得した。


「そうだね…出来るだけ争いは避けたいね。アタイはちょっと出てくるので、チョウさんの相手頼むよスセリ」


ウズメが斎堂の外に出たのを確認して、スセリはチョウの方を向き、何か企んだような笑顔をした。


「チョウ…お前、仇討かたきうちするなら倭の国残るよな…」

「ああ…どちらにしろ倭国わこくの近況報告、知らせる仕事有る」

「だったらさぁ…一緒に宝探し手伝ってくれない?」

「えっ?」

「いや…このくにの何処かにね、異国の宝が眠ってるんだ。それを手にしたら神になれるらしい」

「神?どういう事だ?」

「分かんない。その宝がどんな物かも分かんない。けどその宝、世界中の権力者が血眼になって探してるって猿じぃが言ってた」

「世界中の権力者?ハハハ…スセリ、私、魏の皇帝の使い。世界中の権力者が欲しがる物なら私、太守たいしゅから探してくるよう命令有るはず。そんな…………」


急にチョウが黙り込んだ。何かを考えている。


「どうした?チョウ?」

「いや…その宝の噂、いつから有る?」

「何か猿じぃの先祖が持ち込んだみたいで、そうだな…少なくとも五百年以上は前だと思う…」

「まさか、それ、始皇帝しこうていが探してた宝か?」

「何それ?」

「昔、秦始皇帝しんのしこうていの頃。ジョ・フクという男が皇帝の命令で、倭国わこくに有る、三神山サンシンサン霊薬れいやくを探しに行った話有る」

「霊薬って何?」

不老不死ふろうふし薬だ」

「不老不死………」


今度はスセリが考え込んだ。


「チョウ…もしかしたら其れかも知れない。違うかも知れないが…探し出して確かめよう!」

「いや…しかし…結局ジョ・フク、見つけられ無かった。そう、ジョ・フク、倭国から帰らなかったのだ。宝手掛かり無い」

「手掛かりは有る!」

「何と!」

「そのジョ・フクって人か分からないが丹波タニワの国に行った時、トヨと出会った場所の近隣村にとある伝説が有る」

「伝説?」

「昔、大陸から来た人が村に住みつき、薬草で病気を色々治したらしく、村の英雄として語られている。その人が『くに神種かむくさ』という物をずっと探していたらしく、その手掛かりみたいな事を石に字をきざんで残した。私はその石を見たんだ。たぶん漢字だが私には全く読めなかった」

くに神種かむくさ…」

「何だと思う?」

「霊薬の元となるたね?」

「神に成るたね…探しに行かないか?私は親父オヤジを倒す為に其れが欲しい!チョウは皇帝の良いお土産に成るだろ。本来一人のはずの皇帝が、今は三人居ると聞いてるよ」


確かにそれが実在するなら、魏のわかき皇帝よりも年老いた太傅たいふが喜ぶ。

そう、まさに太傅たいふくわだてている思惑しわく合致がっちするのだ。

だから一層いっそのこと太傅たいふがそれを服用すれば、あらそ三国さんごくを一つに出来るかも…

チョウは近々魏を乗っ取り、天下をも取るつもりの皇帝補佐官シバ太傅たいふの思惑を、上司のオウ太守たいしゅから聞いていた。


「…確かに、私の国、皇帝一人に成る」

「大陸の争いも無くなるよな!」

「……うむ。スセリ、一つ聞きたい」

「何だ?」

「〝猿じぃ〟とは何者だ?」

「ああ、ウズメさんの旦那さんだ。『サルタ』って名前の霊男ヒコで、かなりの禁厭まじなひ師だ」

「その人、なぜ色々詳しい?」

「そのくに神種かむくさは猿じぃの先祖達の大切な宝物なんだ。猿じぃの先祖は魏よりも遥か遠い異国に住んでたんだって」

「ほぅ、遠い異国…どこだ?」

「よく分かんないが、猿じぃの先祖は『クナアンの地』って所から倭の国に来たらしいんだ…」

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