ヒレヒメとウキヒメ
チョウ・セイは計り知れないほどの悔しさを込めて、
「ウワワァァァアイヤァァァー!!」
木の後ろに隠れていたチョウの部下が、〝
〝ブチッ〟
いとも簡単に首をネジ曲げられ、事切れる。
直後に遊び終わった人形の
そして今、〝
チョウは五体居たうちの四体を倒した…
だが残り一体に利き腕を無惨にも切り裂かれ、骨まで達して
両足もあらぬ方向に曲がり、もはや立つことも出来ない。
「ギャァアアアァァァアアアァァ…!!」
大量の血飛沫をまき散らしながら、森中に断末魔の悲鳴が
「
チョウは大樹に
唇を噛み締めながら言った謝罪の言葉は、殺された仲間達と自国の
「ゴォ…ウゴォゥゥゥウゴォ…」
喋ったのか、鳴き声なのか分からないが、真ん中の〝
人間の顔だが人間では無い。
身体の大きさが人間の三倍は有る。
何よりも顔の数と手足の数が違う。
怪物は
「
チョウ・セイは既に死ぬ覚悟は決めていた。
だが
「ョッ…
どこからか
回りを見渡したが誰も居ない。
「すぐ…治すョ…待ってて…」
違う…
声は上からだ。
木の上に誰か登って居たのか…
そう思って上を見る。
いや…違った…
木の上では無かった…
空中だ。
木の横、十尺ほど上空に、年端も行かぬ少女が宙に浮きながら
無表情な上に手足もダランとしているので『首を吊った死体か?』と、チョウは
いや、喋るから死体で有るはずが無いのだが…
余りにも
小さな丸を作ったみづらから見ても、まだ十歳位か…
衣服は素朴な
結び目が少女の後ろで羽のようにヒラヒラしてるが、だからといって空中に
「お嬢さん…早く、逃る…」
「ョッ…もう大丈夫…」
「え?」
チョウは少女に前方を指され、視線を前に戻す。
…無い。
さっき睨め付けていた怪物の三つの顔が無くなっている。
いや、正確には三つの顔は黄色い布に
怪物は藻掻きながら四つの手で顔の布を剥がそうとしているが、その鋭い爪をもってしても布は破れないでいた。
「???」
チョウは何が起こっているか理解出来なかった。
怪物は急に動きを止めると、手がダラリと下がり、地面に四つの膝を付いた。
刹那__
布が外れたかと思うと、血とは思えぬどす黒い液体を飛ばしながら三つ顔の頭が弾き飛んだ。
怪物の巨体はそのまま前倒しになり〝ドスン〟と音をたてながら地面に突っ伏す。
同時に怪物の後ろから人影が現れた。
人影は別の少女だった。
上空に漂う少女よりは年上だろうが、まだ少女と呼べる位の年齢だろう。
朱色の上着に黄色い帯、
束ねた髪を尾花のように括り、頭上に鮮やかな
頭や首に付けた
何よりも印象的なのは、その整った顔の吊り上がった大きな目だ。眼光から気が滲み出ている。
「仙術…?」
チョウは大気の
大きな目の少女は先ほど怪物の顔を
「ごめんなさい…追い剥ぎみたいなことするけど許して…」
誰に言ったのか分からないが、大きな目の少女はそう言うと、右手を横に
翳した場所には先ほど怪物に殺された遺体が有ったが……
「ハヤスセリテマジコレ…」
何かを
動いた!
いきなり
まだ生きている?!
いや、首が無いから生きてるはずが無い…死後硬直か?
だが、そうでは無かった。
よくよく見ると動いていたのは遺体では無い。
遺体が着ていた衣服だった。
衣服はなぜか独りでに動き出し、
少女は飛んで来た服を掴むと、〝ビリッ〟と引き千切りながらチョウの元に駆け寄った。
「トヨ!どう?助かりそう?」
「ョッ…うん…」
「良かった。ごめんなさい…貴方以外はもう無理みたい…もう少し早く来ていれば…」
目の大きな少女はそう言いながら破った服をチョウのもげそうな腕に巻きだした。
「謝謝…ありがとう。この怪我。私もう無理」
「大丈夫。トヨが何とかしてくれる。ジッとしてて」
腕にしっかり布を巻きつけると、血が止まりだした。
上空にいた少女がいつの間にかチョウの
そして羽虫の音ほどの小さな声で何やら
「ョッ…トヨウケメグミテマジコレ…」
すると直後にチョウは身体に何かが流れる感覚に襲われて
「凄い!気流れる。何だ、この気は?仙術?いや、これ
「
「
「そう。さっきの
「うむ。分からない…だが仙術と同じ、
「変わった
「ああ、失礼。私、魏の使い。チョウ・セイです」
「魏の国!ずいぶん遠い所から来たんだ!」
「はい。有る任務、
「へぇ~…」
目の大きな少女は更に目を大きくして、興味深げにチョウの服や剣をマジマジと見だした。
傍らに居た幼い少女の方は興味が無いのか、治療が済むと寝起きのようにボゥーとした顔でフワフワ浮きながら何処かに行った。
「この
「興味有るならお礼だ。差し上げよう」
「いや、私は剣や弓矢を持たない。
「アイヤ!そうだ!貴女どうやってあの怪物の首、落とした?武器持って無いのに?」
「ああ。これだよ!」
少女は首に巻いた布を
「布?」
確かに怪物の顔に巻かれていたが…
あんな怪物がこの何の変哲も無い普通の布に倒された?
「これは〝ヒレ〟。
「布…操る…」
「そう!私はヒレ使い。根の国のスセリだ!よろしくチョウ!」
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