第十九章 モンスターキャッスル
勇者「ここからはさらに慎重に行くぞ」
外に出たからといって、ダンジョンの入り口のような山ではなく、人間が住むような世界ではないような、そんなところだった。
姫「空がどす黒くて、宇宙みたいですわ」
とても狭い道だった。山肌が剥き出しになったような壁が俺達を挟むようにはばかっている。
地面は岩のようなゴツゴツした足場で、とても歩きにくい。
師長「生温い空気で、なんだか気持ち悪いね…」
確かに暑くも寒くもないが、空気は淀み切って、その不純物が妙に生暖かく感じて気持ちが悪い。
少し歩くと扉を見つけた。岩に食い込まれていたその扉は、鉄製の重そうなものだった。
アスカ「ここがモンキャの入り口……?」
師長「正面玄関じゃないね。地下から入らせてボスまでの距離を遠ざけているのかも」
姫「何処に入ったとしてもボスを見つけてギッタギタにしてやりますわ」
勇者「よし、みんな準備はいいな」
姫、アスカ、オカン、師長が順にこちらを見て頷く。
俺は大きめのドアノブを掴み、力を加えて捻った。
ーギイイイイイイイイイッッ
勇者「開いた……」
中はコンクリートでできた暗い廊下が奥まで続いていた。もちろん窓なんかはないが、一定間隔に蝋燭に炎が灯してあった。
姫「不気味ですわね……」
オカン「え、どうする?やめとく?」
勇者「いや行くだろ普通」
勇者が一歩足を踏み入れた。その時ー
!?
姫「何事!?」
機械的な、ブー、という警鐘が鳴り響いた。間もなく何処からかバタバタという足音が聞こえた。
オカン「セコムや」
うそん。
師長「何者かが侵入してきたって警告なのかも……」
アスカ「他の魔物に見つかる前に早くボスの元へ行かないと!」
オカン「え、もう帰ろうや」
勇者「誰が、帰る、かあああァァァァァァァァァァァァァアアアア!!!」
暗い廊下を一目散に駆け抜けた。みんなが後を追う。もうみんな一心不乱だ。
廊下の突き当たりには錆びたハシゴが立てかけられてあった。 それを見るや否やガシッと掴み、慎重かつ迅速に上って行った。緊迫感だろうか。なにか感情が掻き立てられるような、そんな感じを覚えた。
ハシゴを上った先は、調理場のようなところだった。調理場とは言っても、コンクリートで固められた流し台、キッチン台がある。キッチン台の上には何かの肉片がゴロゴロころがっていた。生臭い。しかし魔物の姿はいない。
姫「ねえ、これ、人骨じゃなくて!?」
姫が鼻をつまみながらヒソヒソ声をあげた。
アスカ「ず、頭蓋骨」
お、おえええ、と一同声を上げながら、魔物に見つからないように慎重に進んでいく。が、
勇者「迷った」
広い、誰もいない。まるで迷路だ。脇にある蝋燭の炎が道標になる訳もなく。
勇者「ボスって、どこにいるんだ……」
師長「私もそこまでは……」
万策尽きた。そう思われた。なにせなにも調べずに来たのだ。こうなることは目に見えていただろう。
??「き、キミたち……こ、ここまでこれたんだね…!!」
!?
恐る恐る声のする方へ顔を向けた。
タナカさん「やあ、覚えてる?」
「えっ」一同声を漏らす。
勇者「お、お前……社員の」
そう、魔物に取り憑かれていたタナカさんだ。あの後会社に戻って始末書を書いていたのではなかったのか。
勇者「なんでここにいるんだ!?」
タナカさん「いやあ実はさ、君たちに会ったあとに会社に戻ったら、課長から"交渉成立するまで帰ってくるな"って言われちゃってさー」
勇者「え、それでまたここへきたのか?」
タナカさん「そうだよ。今度は鍛え上げてきたよ。もう魔物の餌食にはなるのは勘弁だよ」
タナカさんはたしかに以前会ったときよりもムチムチになっていた。
タナカさん「キミたちがもうボスを倒していてくれていたらいいなぁとか思いながら、ここまできたんだ」
勇者「い、今から行くのか?」
タナカさん「ああ、そうだよ。でもキミたちはボスを倒しにきたんだろ?じゃあ僕も協力するよ」
!?
姫「それってつまり」
タナカさん「仲間になって一緒にボスと戦う。倒せばこの城もなくなる。僕は会社に戻れるし、キミたちは七色鳥が手に入る」
タナカさん、なんかもう目的違ってきてるけど……
ここでタナカさん(しかもムチムチのタナカさん)が仲間に加わってくれると心強い。
勇者「ぜひお願いしたい」
タナカさん「任せて!」
こうしてタナカさんが仲間に加わった!
「ここにいる魔物達はフィールドにいるヤツらとほぼ同じレベルだよ」
そう言いながら次から次へと出てくる魔物の息の根を止めていった。
俺達が彷徨っていたところとは大違いに魔物の数が多い。
「もう気づかれてるみたいだね。慎重にいこう」
階段を上り、小さな部屋に入り、通気口の蓋を開けて中に入る。
「ここの城の鍵のパターンも、ボスへの近道も全部把握してる。安心して」
そう言って二カッと笑うタナカさんが眩しい。
「勇者は使い物になりませんわね」
姫の呆れたような声が届いたが、少しイラっとしたが、認めざるを得ない。まあ姫には言われたくなかったのだが。
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