3 過去と今はどこへ
「……」
まだ崖の向こう側の風景をじっと見ている。
もう一度彼は沈黙の彼女に聞いた。そっと静かに、機嫌を伺う様にして。
「あの.....こんなところへ来る人はめったにいません。なにかありました......か?」
自分と同じ運命の人だと仲間を見つけるように、彼は問いかけた。
「……あなたも何かあったの?」
やっと彼女は声をこぼした。そっと。
「まあ、そうですね……」
「……そう」
この人も何か壮絶な過去があるのかと考えた彼は大きな挑戦をした。
「僕はここを見ると安心します……。この天国の岩は、昔からずっと残し続けてくれていて……一味違う壮絶な過去も、すっかりいい方向に変わっている感じもして」
独り言のように彼はつぶやくと、彼女はそれに続くようにして話した。
「ここもすっかり古くなったわね……。天国に一番近いというのはもうだいぶ昔のことで、今となればそこらの都心ビルがどんどん追い抜かしているわ」
ため息をつくのかと思えば、なにもせず、街を見下ろしている。
「あの……あなたは何故ここにいるのですか……?」
あらためて彼はもう一度、より真剣に聞いた。
「時間という概念を超えて、何かの衝撃でここに来た……。大切な家族を置いてきてね」
また無口になるのかと思えば、今度はあっさりと答えた。
彼には壮絶な過去があると分かったからか。どこかで仲間の意識があったのかもしれない。
ここで、二人は初めて繋がったのである。過去と今を隔てていた大きな壁を取り払って……。
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