2 天国に一番つながる場所
「ふぅ。もう終わり。明日もまた仕事だし帰って寝ようか。」
小さなため息を吐くと、彼は高台から降りようと近くの階段を探した。
ここは
それでもここから見る景色は時代を超えても格別で、まるで全ての様子が伺えるように……。周りは「落下注意」と書かれた錆びかけの看板と壊れかけた木の柵が置いてる。その柵から下を覗くとそこは険しい崖。このままでは非常に危ない。
ここにはもう前のような管理人がいないため、どうしようも出来ないのだ。
この岩を誰よりもぎゅっとずっと大事にしていた、あの管理人。
時代は無慈悲に過ぎて止まることなしで、とっくに死んだ。仕方がない所もある。
逆にこの場所は一生残り続けるのではないか。今も電子音や繁華街のざわめきが街中で聞こえ、そんな世界になってもこの岩は残っている。
ここは唯一自分にとって昔を思い出させてくれる場所。
大切な人の死を受け入れたり、大切な人と一生付き合っていくと決めた時に、ここで思いを伝えたことも……。
「よし、本当に帰ろう」
非常階段のような薄緑の鉄階段を見つけると、そこへ向かってゆっくり歩き始めた。
こつこつこつ……とんとんとん。
彼が階段に差し掛かろうとする。
しかし女の人が突然、彼を呼ぶようにして肩をたたいた。
「何か落としましたよ」
彼は振り返ると、少し驚いた様子を見せたが数秒で落ち着きを取り戻して、そっとお礼を言った。
「ありがとうございます。落としてはいけないものを落としてしまいました」
「そう……。今渡せて良かった。」
彼とほぼ同じような年齢で長い髪、流れるように薄暗い黒のコート。そして白黒チェックのマフラーを羽織う。
なぜこんな場所に、彼と同じ30歳程度の女性が突っ立っているのか......。
雑草だらけですっかり荒野になったこの天国岩なんかに来る人は珍しく、現代人からしたら「なんだこの気味の悪い場所は」とでも思っているのだろう。
そうすれば彼女は、昔から何か思い入れがあるのか??
彼は不審に思いながらも、ひそかに興味を示していた。
なにか、新しい発見があるのではないかと。そう信じて。
「……ここへは良く来るのですか?」
思い切って話しかけて見る。
「……」
しかし彼女は何かを考えているようでじっと前を見つめていた。
目をまんまるにして悲しそうに、あの連立する超巨大ビルをじっとずっと眺めていた。
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