第2話 異世界にて……
目が覚めると草原に寝っ転がっていた……。
「何処なんだここは?」
冒険者っぽい恰好と革で出来たボディーバッグと日本刀が転がっていた。
「バッグの中身は何が入っているんだ?」
そういってバッグの中身を取り出していくと緑色の液体が入った小瓶が数個と金貨が1枚、銀貨が8枚それと銅貨が20枚入っていた。察するに何かの薬とこの世界の通貨だ。
「せめて地図ぐらい渡してほしかったな……」
見渡す限り草原で地平線に森のような場所が目視できるだけで周りに建物は何もない。
「とりあえずはあの森を目指して進んでみるか……」
溜息を吐いて立ち上がり、はるか先に見える森を目指して歩き始める。
いざ歩き始めると思っていたよりも足取りは軽く、まるで羽でも生えたかの様……に思えたのは最初のうちだけで徐々に足取りは重くなり、ふくらはぎはパンパンになっていた。
「なんにもない……。正直もう歩きたくないんだけど……。っていうか、どうしてこんな辺鄙な場所に転生させたんだよ! 町とか村に転生させてくれれば良かったのに」
そんなことを言って草原を歩いていると犬の様な唸り声が聞こえる……。腰に提げた日本刀に手を添えてジッと息を殺し、辺りを見ると犬のような生物が3体俺の周りをグルグルと回っている。
「来るなら来いよ! 叩き斬ってやる」
そういって抜刀の構えをとると茂みから白い子犬が1匹と黒く額に角がある子犬が2匹現れた。
「犬じゃないよな? なんだ、この生き物?」
常に刀が抜けるようにしながら犬のような生物を観察していると犬のような生物はついてこいと訴えているのか俺の前を歩きながら少し歩いては振り返って俺のことを見つめてくる。
「うぅ~ん? ついて来いってことなのかな? ついていって何か罠があったらどうしようマズいよな? 知らんぷりするべきなのかな? でも、これだけ俺のことを気に掛けながら歩いて先導しているってことは何かしてほしいことがあるってことなんだよな?」
そんなことを呟きながら、犬? について行くと一部草原が拓けた場所があり、そこには横たわる大蛇と傷ついた大きな白い犬? と血まみれで横たわる黒い犬? がいた……。
コイツの怪我を治してくれってことなのか? もしそうだとしても、いったいどうやって治せばいいんだ?
そんなことを考えていると白い子犬が近づいてきてバッグを咥えて引っ張ってくる。
「ちょっ、引っ張るなって……。バッグの中身は、変な薬しかないから……。もしかしてその変な薬を使ってくれことなのか?」
疑問に思い白い子犬を見つめると頷いているように見えたので、俺はバッグから緑の液体が入った小瓶を取り出して、それを傷ついている大きな白い犬に飲ませた。
飲ませた直後はあまりにもマズかったのか吐き出そうとしたので必死に口を押えて緑の液体を飲み込ませると大きな白い犬が淡い緑の光りに包まれ、傷が癒えていく……。
「スゲェな……。あんなに重症だったのに傷が無くなってる」
傷が治った大きな白い犬は俺に頭を下げて血まみれで横たわる大きな黒い犬に寄り添い、動かなくなった体を舐める。
「あれだけ酷い怪我が治ったんだから、もしかしたら治るかもしれないよな? ものは試しだ、ちょっと待っててくれ」
バッグから9本あったうちの3本を取り出して、横たわり動かなくなった黒い犬の口に流し込む……。
「出血の量が多すぎるな……。助かるかな?」
この薬にどんな効果があるのか分からないが正直、3本飲ませただけじゃ足りないと思う……。
緑の淡い光りに包まれた黒い犬は傷口が綺麗に塞がり毛並みもサラサラになっていく。
「この薬スゴイな……。飲んだだけで毛並みもサラサラになるのかよ……」
そんなことを呟いているうちに光りは収まる。しかし黒い犬は一向に目を覚まさない。
やはり手遅れだったのか……。そんなことを思っていると倒れている黒い犬の隣に白い犬が座り込み、黒い犬の顔を舐め始める。
「ごめんな、治せてあげられなくて……」
そういって倒れている黒い犬の頭を撫でると何故か温かい……。
不思議に思った俺は耳を澄ますと黒い犬から寝息の様な息づかいが聞こえる。
「寝てるみたいだな……。っていうか本当に何なんだこの薬は?」
見た感じ、青汁をギュギュっと濃縮したような物なのに効能が凄すぎる。確かめてみようと思い、バッグから一本取り出して、少し舐めてみると想像以上に不味かったが切り傷や擦り傷が一瞬で治った……。
しばらくすると黒い犬は目を覚まし、辺りを見渡している。
「起きたのか? だいぶ酷かったんだぞ? 家族を守るのは良いけど無茶するなよ……。お前が死んだら家族が悲しむじゃん……」
そういって黒い犬を撫でている俺の頬には、いつのまにか涙が伝っていた……。
「義父さんはタバコ止めるって言ってたけど止められたのかな? 義母さんは10キロ痩せるって言って野菜生活始めてたけどちゃんと痩せられたのかな? 瑠璃は約束が守れなくて怒ってないかな? みんなに会いたいな……。会って死んじゃったことを謝って、泣かないでって伝えたいな」
そう言いながら犬達を見つめていると俺が泣いていることに気がついたのか、心配そうな顔で俺に近づいてくる。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
そういって近づいてきた子犬たちの頭を撫でていると、近くの林から女性の声が聞こえる……。
「もしかしたら、この世界の人かもしれない!」
そう思った俺は立ち上がり、犬たちに手を振って林へ向かうことにした。
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